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第268話

日曜日は、征治さんが洗濯をする間に僕が掃除機をかけ、一緒にスーパーに買い出しに行ったり、たまたまつけたテレビでやっていたBBCのネイチャードキュメンタリーの映像の美しさに思わず見始めてしまったりするうちに、あっという間に時間が過ぎた。 征治さんはやはり疲れていたのだろう、映像を見ながら「凄いな」「信じられないね」と呟いていたのに、急に静かになったと思ったら、瞼が落ちていた。 クッション2つを使って枕になるようにして、そっと征治さんの体を横向きに寝かせる。 僕はすぐ傍の床に座って、しばらく無防備な征治さんの寝顔に見入っていた。 征治さんたら、寝顔までかっこいいんだもんな。 鼻が高くっていいな。彫りが深くて知的な感じがする。休日の征治さんは髪を自然に下ろしているので、仕事に行くときより少し若く感じるんだよね。 いつまでも見ていたいけど、規則正しい深い呼吸を聞いていたら僕まで眠くなってしまいそうだったので、夕飯用にほうれん草のお浸しと吸い物を作っておくことにした。 小一時間ほど眠った征治さんが、身じろぎをし、「ん・・・陽向?」と言いながら目を覚ました時は、なんだかキュンとしてしまった。 夕飯に篠田さんから貰った鰻に舌鼓を打ちながら、征治さんが僕の滑舌が凄く良くなったと褒めた。 自分でも、声はかなり掠れず滑らかに出るようになったかなと思っていた。 滑舌はまだ人よりスピードが遅い気がするが、3週間ぶりだと改善がよく分かると征治さんは言った。 確かに最初の頃は初対面の人だと、「外国人?」というような目つきをされていたが最近はそんなことも無い。 そんな話をしていると、山瀬さんから征治さんにまた仕事の電話が入った。真面目なやり取りが続いた後、声のトーンが変わる。 「ええ、居ますよ。当然じゃないですか。羨ましいですか?」 仕事の話はもう終わって、また僕のことを言ってからかっているのだと判断して、お酒のお礼を言わせてもらおうと電話を替わってもらった。 「やあ、ひなたん。お口に合ったなら嬉しいんだけど。ひなたんは桂花陳酒の方が良かったかな」 「凄く美味しかったです。鯖寿司にぴったりでした」 「それならよかった。征治になかなか休みをやれなかったからお詫びの気持ちだよ。また一緒に飯でも食いに行こう。征治が忙しかったら二人ででもいいよな」 「もう、ひなたんとか・・・。勝手に人の恋人を気安く誘わないで下さい」 征治さんが取り上げたスマホからは山瀬さんのゲラゲラ笑う声が聞こえてきた。

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