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<第23章>   第271話

約束の時間よりずっと早く着いてしまったが、陽向の部屋で準備が出来るのを待てばいいかと近くのコインパーキングに車を停める。 陽向の部屋があるビルに近づいていくと、普段はあまり人を見掛けないのに、1階の小さな蕎麦屋やその隣の何かの事務所の前に小さな人だかりがある。 不思議に思って目をやると、その中に陽向の姿を発見した。 「あれ?征治さん早いね」 征治の姿に気が付いた陽向がその場の面々にぺこりとお辞儀をすると、駆け寄って来た。 マスクと着古したTシャツといういでたちから、まだこれから外出の準備をするのだとわかる。 一緒に7階までの階段を上りながら「何かあったのか?」と尋ねる。 「うん。少し前にね、ガシャーンって大きな音がしたんだ。何だろうと思って、窓を開けて様子を窺ってたら下から人の声がいっぱいしてきたから降りてきた。 どうやらね、5階の窓の外についてる金属の柵が経年劣化で錆びてて、外れて地面に落ちたらしいよ。その柵には重たいものは置かれてなくて、空のプラスチックのプランターが2個載せてあっただけらしいんだけど。ちょうど下に誰もいなくて怪我した人はいなかったみたい。 このビル古いからね。僕は知らなかったんだけど、前にも別の部屋で網戸がサッシごと落下した事故があったんだって。さっき、教えてもらった」 「窓についているあの金属製の柵?あそこに植木鉢置いてる家も、布団が干してあるのも見たことある・・・経年劣化で単体で落ちるようじゃ、もの凄く危ないじゃないか」 「うん。僕も本当はプランターでも並べたいところだけど、見るからに強度に不安を感じたから、やめてたんだよね」 「心配だなあ。窓開けた時、手をついて体重掛けたりしないようにね」 急いで準備するから待っててねと言う陽向に頷き、窓から公園を見下ろして呟いた。 「これ、なんだよな・・・」 車に乗り込んだ陽向は上機嫌だった。 「ああ、楽しみだなあ、初めての映画館!でも、ほんとに怪獣映画で良かった?子供みたいで嫌じゃない?」 「いや、俺も見たかったよ。内容は子供向けじゃないみたいだよ。山瀬さんはゴ〇ラの大ファンで、今までの映画を全て見たらしいけど、面白かったって。でも、陽向がゴ〇ラ好きだとは知らなかった」 「父さんが好きだったんだ。子供の頃、何度か古いやつを家で一緒に見たことがある。それに、今回のはちょっと別のお楽しみもあるというか・・・えへへ」 「え、なに?好きな女優が出てるとか?」 「わ、近い!というか、正解?男性の俳優さんだけどね」 「誰だろう?」 「えっとね、主役?準主役?よく知らないけど、メインの二人のうち目の大きな方。わかる?」 「ああ、わかる。なんで好きなの?なにかドラマとか見た?」 「えへへ、あの人、ちょっと征治さんと似てるよね」 予想外の答えに、吹き出した。

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