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第272話

「え?征治さん似てるでしょ?あの人をぐっと若くして更に鼻を高くしたらさぁ。あの人、質は違うけど征治さんと一緒で声も低いし。でも、僕は征治さんの方がずっとかっこいいと思ってるけどね」 「陽向、それあんまり人に言わない方がいいかも」 本当は今まで何度か似ていると人に言われたことがある。 「海猿の人に似てる」とか「サッカーの〇〇に似てる」とか、皆適当なノリで言っているだけだから、本気にしたことは一度もなかったが。 「ほんとはね・・・芹澤の部屋に閉じ込められてた時、一人でずっとテレビを見てて・・・あの俳優さんの若い頃のドラマをたまたま見かけて・・・征治さんを思い出して泣いちゃったことがある」 「・・・そっか」 「それからあの人と征治さんが強く結びついちゃって。悲しくなるから、ずっとあの俳優さんを見ないようにしてた。だけど、今は逆に大好き。ふふふ、もはや他人とは思えない」 にっこり笑う陽向に、ほっとする。 「映画、面白いといいね。ついでにその俳優が大活躍してくれたら、俺の好感度もアップするかな?」 「あははは」 「マズい、逆もあり得るよな。酷い奴だったらどうしよう」 「あははは!」 カラカラと声をあげて笑えるようになった陽向。 人混みも以前はあんなに怯えていたのに、今回は自分から映画館に行きたいと言い出した。 「映画館まではサングラスで、中ではこの伊達メガネに切り替える」と大真面目に作戦を考えているあたりは、まだ完全に自由ではないのだろうが。 それでも明らかな陽向の変化を感じ、俺は軽快にハンドルを切った。

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