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第273話
映画はなかなか面白かった。
ただ、例の俳優の動向がやたら気になったのは困った。
シネマコンプレックスが入っていたショッピングモール内のコーヒーショップで、テイクアウトのコーヒーと陽向は甘い何とかフラペチーノを買って、海沿いに設けられている広場を歩く。もうこの時間ならそう暑くも無いし、海からの風も心地いい。
手すりにもたれて海を見ながら、一通り映画と映画館の感想を述べて満足気な顔をしている陽向に話しかけた。
「ねえ、陽向。相談があるんだけど」
「ん?なあに?」
「陽向の住んでるビル、危険じゃない?また、何か落ちてくるかもしれないよ?出入りするとき何か落ちてきて怪我をするかもしれないし、陽向の部屋のものが落ちて下手したら誰か殺しちゃうかも知れない」
「うん。他の人達も危険だから管理している不動産屋さんに話をしに行くって言ってた。共通認識にしようって言われたよ」
「ん・・・落下物だけじゃなくってさ、そもそも耐震強度だって怪しいよ。危ないよ」
「うん?そうかもね」
「・・・あー、話す順番間違えた。そうじゃなくって・・・」
「?どうしたの?」
「陽向。二人で一緒に住まない?」
陽向がこちらを向いて動きを止めた。
「色々問題があるのは分かってる。陽向はあの部屋からの見晴らしが気に入っているから離れたくないだろう。それから、俺達のこともオープンにするのをためらってるんだから、男の二人所帯なんて気にするよな。俺の方も社宅の扱いをどうするかとか諸々・・・。
だけど、俺は陽向と一緒に暮らしたい。なんか、どんどん欲張りになっててさ、週末に会うだけじゃ全然陽向が足りないんだ」
口をポカンと開け、突っ立ったまま一言も発しない陽向にちょっと焦りはじめる。
何か言葉を足した方がいいかと思い始めた時、小さな溜息のようなものが聞こえドキリとした。
「・・・分かってないんだね、征治さん」
え?何をだ?
「僕がどれだけ征治さんのことが好きか。そりゃ、うちに打ち合わせにやって来る篠田さんにどこまで話そうかとか、細かいことはあるよ?だけどそんなの、断る理由になんてならない。凄く・・・嬉しい」
陽向がサングラスを外した。その表情を見るに、今の台詞は本心からであると思ってよさそうだ。
「それってさ・・・毎朝、目が覚めたら隣に征治さんがいてくれるってことでしょ?う、うわぁ・・・」
拳で自分の口を押さえて、一人でうわーうわーと繰り返している。
俺は俺で、色よい返事が貰えて舞い上がり、我慢できずに陽向のその手を取り、指先にキスをしてしまった。(一応周りの人影は確認した)
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