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第274話
再びふたり並んで海を眺める。
「出来れば、2LDK以上の部屋をあの公園の周りで探したいな。一つは陽向の仕事部屋にするんだ。リビングか陽向の部屋の窓からあそこの緑が見えるところを探してみよう」
「別にあの公園に縛られなくてもいいよ?」
「だけど、東京があまりに狭苦しくって、あの公園で息苦しさを紛らわせてたって言ってただろ?大きな図書館も近い。毎朝のランニングにもいいし、俺と陽向の再会の場所でもあるよ?俺もジムは解約して、朝一緒に走ろうかな」
「ベランダがあるといいな。プランターでプチトマトとか育てたい」
プチトマト!
可愛い望みを口にする陽向が可愛すぎる。
「他には?なんでも言ってみて。すぐに実現できるかどうかは別として」
「えーっとね、ペット可のところなら何か動物を飼いたいな。できれば犬がいいけど・・・犬が煩くて無理だったらウサギとか。白くて耳の長いのじゃなくて、ピーターラビットみたいな茶色のちっさいの。一緒に遊びたい」
ふふ、バンビがウサギと遊ぶのか。
「俺は、今みたいな単身者用じゃないキッチンが欲しいな。休みの日なんかに二人で一緒に色々作って楽しみたい」
「いいね、それ。前に言ってたオーブン機能付きのレンジ、買う?そうしたらピザとか家で焼ける?」
陽向が弾んだ声で相槌を打つ。
「住むところの話じゃないけど、僕、最近色々やってみたいと思うことがあるんだ」
「例えば?」
「征治さんと一緒に、勝君が住んでいるところを訪ねてみたい。
勝君が時々連絡くれるんだ。『兄貴と遊びに来い、凄い田舎でびっくりするぞ。だけど空気も水も美味いぞ』って。それに、新幹線も飛行機も乗ったことがないから、そのどっちかで行ってみたい。
それから、車の運転免許も取りたいな。征治さんが疲れている時は僕が運転替わってあげたい。
仕事の方ではね、小学生ぐらいを対象とした児童小説も書いてみたいんだ。僕が征治さんから読み聞かせしてもらったり、貸してもらって読んだ時みたいな、ドキドキワクワクする感じを子供たちに届けたい」
海風に髪をなびかせながら、夢を語る陽向の横顔が夕日に照らされオレンジ色に輝いている。
まだスクリーンの中の一シーンを見ていると錯覚するような美しさに、しばし言葉を忘れて見とれてしまう。
陽向がこちらを振り向き、微笑んだ。
「ねえ征治さん、これから先のことを楽しみに色々考えるって、凄くワクワクするね」
ハッと胸を突かれ、鼻の奥がツンと来た。
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