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第2話

山瀬は社長室、といっても普段はオフィスの一角を透明なガラスで仕切っただけの場所だが、そこの開口部に立ってこっちを手招きしている。“すぐに、行く”と頷くと、山瀬は自分の机に向かって何か食べ始めた。 社長室に入るとインスタント焼きそばの匂いが充満していて、案の定、山瀬が焼きそばをズルズルとすすっていた。 「また、こんな不健康なもので昼飯終わりですか?もうちょっとましな物食べましょうよ」 「だって、外出るの寒そうだったし。それに、その本読んでたら、面倒くさくなっちゃったからさ」 社長の机の上には2冊の文庫本が置いてある。ちらと見たが、聞いたことのない作家の名前とタイトルが書いてあった。 「ちょっと相談したいことがあってさ。征治、何か急ぎの仕事あるか?」 「大丈夫ですよ。食後のコーヒーでも淹れてきますよ。それまでに、それ食べちゃってください」 「お、サンキュ」 征治の勤める「ユニコルノ」はまだ社員50人足らずの小さな若い会社で、いわゆるお茶くみ事務員などはいない。部長や社長でさえも、基本的には自分で自分の飲み物は淹れる。と言ってもコーヒーはカセット式のマシンが置いてあり、誰でも簡単に美味しく淹れられるのだが。 コーヒーカップを二つトレーに載せ社長室に戻ると、山瀬はちゃんと焼きそばの片付けも終え、応接セットのソファーで先程の本をパラパラめくっていた。 「征治、早く座れ」 そう急かす山瀬の顔は、子供のようなキラキラした目をしていて、ああまた何か面白いことを見つけたんだなとわかる。 「部屋、クローズにします?」 「ん、一応そうしとこうか」 征治は開口部のスライドドアを閉め、壁にあるスイッチを押した。透明のガラスの壁が瞬時に曇りガラスに変わる。 「今度は何を思いついたんです?」 「昨日、宝探しの旅に出ててさ・・・」 ワクワクした気持ちが抑えられない様子のこの男はこれでも社長であり、征治の恩人でもある。 父親は一代で立ち上げ上場まで果たした会社の社長で、その息子らしく頭脳明晰でバイタリティーに溢れた天才肌の男だ。 大学在学中に作ったゲームコンテンツがいけると踏むや否や、5年で倍にして返すから一千万貸してくれと父親にせまり会社を設立した。 はたして、設立した「ユニコルノ」のゲームは大ヒットし、3年で父親からの借金を返し、その後も様々なスマートフォンアプリからデジタルコンテンツの配信、最近ではICT化を進める学校に教材を配信するサービスや、そういうものが全く苦手な教師のための講師派遣も手掛けている。 あまたある競合他社との激しい競争に負けずに成長できているのは、やはり社長の発想力に拠るところが大きいと征治は思っている。元々は技術屋である山瀬だが、好奇心が強い子供のようなところがあり、面白いことを探すのが大好きなのだ。 きっと昨日も何か新しいものを探して、本屋にでも行ったのだろう。 「聞いたこともない作家と小さな出版社なんだけどな。ほら、最近本屋の店員がレビューを書いて貼ってたりするだろ?それがちょっと目を引いたんだ。 『幸せ探しの達人が贈る爽快な物語。読み終わったあなたはきっと笑っていて明日はいい日だと思えるでしょう』だったかな?とりあえず何冊か買って帰る中にこれも入れたんだ。 読んでみたら確かに面白くてさ。かなりの登場人物がいるんだが、皆が最後にはそれぞれの幸せを見つけるんだ。それがちょっとありきたりでなくて、それが幸せだと全く気付いていなかったものだったりしてさ。 確かに読み終わった後に笑ってたんだよ、俺。」 どんな話か今の説明ではよくわからないが、この小説をどうにかしたいのだろうか?

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