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第3話

「で、ユニコルノでどう料理するんですか?」 「まあ、そんなに焦るなよ。俺はこの作家の事が気に入って他の作品も探してみたんだが今のところ3冊しか出ていないんだな。もう一冊買って読んでみたが、これもまたいいんだ。 しかし最初に出した本は殆ど売れなかったのか、あっという間に絶版になっていて、中古市場でもほとんど見当たらない。だがコアなファンというのはどこにでもいるらしく、この1冊目を絶賛している人が多いんだ」 まだ、話はよく見えてこない。 「この作家の作品をどう生かそうか色々考えてたんだ。今時TVのドラマ時間枠を買ってCM流しても、みんな録画で見てCMはカットしちゃうだろ。 小説をアニメか実写ドラマに起こして配信するのがいいかと思うんだが、スマホやタブレットでわざわざ動画を見るのって年齢層が限られるし、その年齢層はもっと刺激の強いコンテンツを好む傾向が強い。もっと全年齢向けで誰が見ても嫌な気持ちにならないそういう作風なのよ。」 ほのぼの系ってことか? 「例えばさ、うちの作っているポータルサイト、今一つアクセス数が伸びてないじゃん?あれがもっと伸びれば広告収入も上がるからなんかテコ入れしたかったんだけど、新聞の連載小説みたいにいつも決まった場所に、3日ごとに話が進んでいくアニメーションを載せるっていうのどうだろう?」 「大事な広告スペース、それに割くんですか?それに、そんなのウケるんですかね?新聞の四コマ漫画みたいに、誰が読んでも毒にならないようなものって、取り立てて読む側も期待してないんじゃ?」 「いいとこ突いてくるね。でもあれって、いつも見るように習慣づいてると見ないと落ち着かない気分になんない?しかもそれが続き物で面白かったら? あと、新聞の連載小説も意外と好きなのよね、俺。旅行なんかで家を空けるときも、ニュースなんかはどこででも手に入るけど、あの欄が読みたいから配達店に取り置き頼む人って結構いるらしいよ?」 そういうものなのか。 「まあでも、もっといろんなアイデア沸いてくるかも知れない、作者に会ってみたら。ってことで、出版社と作者に会えるようにセッティングよろしくな。あと絶版になってる1冊目も読みたい。ついでに出版社に掛け合ってみて」 いつもの山瀬の癖がでたようだ。山瀬は人間に強い興味を持つ。そして、直接その人間と会ってみないと何も分からないというのが持論で、いろんな人のところへ自ら足を運んで会いに行く。 そして相手からインスピレーションを受けることもあれば、相手の才能が山瀬の持つエネルギーにより化学反応を起こし、新たなものが生み出されることもある。 「了解しました」 山瀬から2冊の文庫本を受け取りながら返事をするが、急に山瀬の手が止まる。 「征治、お前も一緒についてこい。スケジュールの調整頼む」 最近ではそういうことも少なくなっていたので意外な気がして山瀬の顔を見るが、本人は笑っているだけで、特に説明する気もないらしい。 「わかりました。サイトの担当者も同行させますか?」 「いや、まだそんな段階じゃない。上手く料理できるかどうかもわからんから二人でいいよ」 征治は頷いた。 自分のデスクに戻り、早速ネットで出版社の事を調べ始めた征治は、程なく手を止める。先程から、身の回りを飛び回る蚊のように、頭の中に征治の集中力を削ぐ何かがある。 俺は今、何にイライラしている? そして思い当たるのは、先程の原田さんの結婚話や山瀬との会話に度々登場した『幸せ』という言葉。 前から感じていたが、『幸せ』という言葉がカンに障る。 なぜだ?俺はもう、今の自分を不幸だとは思っていないはずだ。 幸せなんてただの幻影だと思っているだけで。 色々思いを巡らせるうちに、突然映像のように浮かび上がった記憶。子供の頃に幼馴染に乗せられてやった『幸せ探し遊び』。 はっ、笑えるよな。お前が一番に俺を裏切ったのに。大事なものを奪ったのに。 苛立ちの原因はこれだったことにして、征治は頭を振って中の邪念を振り払い、仕事を再開した。

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