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<第2章> 第12話
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征治は休みの日はいつも一人で過ごしてきた。一週間寝に帰るだけだった部屋を片付け、洗濯をして、気が向いたらジムに行って泳ぐかスカッシュをする。
唯一の趣味と言えるのは読書で、気候の良い時期はいつも近所の公園のベンチで数時間過ごす。
今日も2冊ほど持っていつもの公園にやってきたのに、作業員たちが木々の剪定作業に入っており、チェーンソーの音がうるさく読書どころではなかった。
どうしたものかと考え、歩いて30分ほどかかる別の大きな公園に行ってみようと思いつく。確か、噴水の周りにたくさんベンチがあったはずだ。
公園に向かって歩きながら、先日山瀬に言われたことを思い返す。
あの言葉は耳に痛かったが、ありがたかった。はっきりと言葉で指摘されたことで、自分の小ささと幼さに気が付き恥じ入った。俺はずっと楽な方へ逃げ続けていたんだな。
あんな風に俺の為を思って本当のことを言ってくれる人がいる自分は恵まれている。
あ、俺もちゃんと幸せ見つけられたぞ。
少し楽しい気分になってきた自分の単純さに笑う。
公園に着いて、落ち着いて本を読む場所を探した。大きな噴水広場の周りをぐるりとたくさんのベンチが取り囲んでいる。征治は程よく木陰になっているベンチに空きを見つけ、腰を落ち着けた。
4月の風と日差しが心地良い。あとひと月もすれば周りの木々は更に葉を茂らせ青さを増すだろう。それが風に揺れるさまを思い浮かべ、ああ、青嵐とは青葉を揺らす強い風という意味だったなと思った。
今日は休日で、この公園は駅から近いこともありそれなりに人出がある。噴水の周りでキャッキャッとはしゃぐ子供や追いかける親の姿を見ても、今日はいつものように冷めた気持ちにならず、征治はやがて本の世界に入りこんでいった。
暫く没頭し、肩が凝らないようにと首をゆっくり回した時、征治の視界が何かを捉えた。改めて周りを見回してみて、あっと思った。
5つほど離れたベンチにマスクをかけた男が座っている。あれは先日会った、秦野青嵐だ。マスクで顔は半分隠れているが間違いない。あの髪形と首まで隠れるタートルネック。膝の上にはノートパソコンが置かれている。ここで執筆をするのだろうか。
あの男が突然帰ってしまってから、山瀬の希望に沿ってもう一度会うことは出来ないかとあすなろ出版に連絡してみたが、全く取り付く島が無いのだと篠田が申し訳なさそうに言っていた。
そればかりか、「絶対にユニコルノと何かをやることは無いので連絡もしないでください」と言われたそうだ。何がそんなにあの男の態度を頑なにしたのかさっぱり分からない。
暫く秦野を観察していた征治は、やがて彼が何もしていないことに気が付いた。ノートパソコンは閉じられたままで、ぼーっと噴水の方を見ている。
右手に何か輪っかの様なものを持っているように見えるが、ここからではそれが何なのか分からない。時々うなだれるように頭をさげ、まるで大きなため息をついているように見えるのは気のせいだろうか。
なんとなく元気がなさそうだが、あのマスクは風邪をひいているのか、花粉症なのか?いや、だとしたら、わざわざこんな公園に長時間ぼーっとしていないよな。
今、ここで交渉してみようかと思い立つ。しかしあの様子、もしかすると何か小説の構想を練っている最中かもしれない。だったら邪魔をしても悪いから、こちらも本を読みつつ、彼に動きがあったら声を掛けてみようと思った。
時々、秦野の方に視線を送りながら読書を再開する。が、秦野は一向に動かず行きかう人々を眺め続けているようだった。ふいにその光景に既視感を覚えたが、それはあまりに長い間こうしていたからかもしれない。
そうこうするうちにとうとう手持ちの本を読了してしまい、さてどうするかと思ったとき、秦野がゆっくりと立ち上がった。パソコンと輪っかをショルダーバックにしまい、駅とは反対の出口に向かって歩き始める。
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