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第18話
「すいません。風見陽向は・・・私の古い知り合いです」
「どういう人物でしたか?あなたとはどういう関係でしたか?」
「・・・風見さんは、あ、陽向の父親のことです。いや、その前に・・・
私の祖父はいわゆる地方都市の地元の名士と言われる人でした。地元の発展のために優秀な人材を育てようというという篤志家で、優秀でありながら経済的事情で大学に行けない若者を返済不要の奨学金で援助するという活動をしていました。奨学生たちには強制ではないが、ゆくゆくは地元に貢献してほしいというと願いを説いていました。
風見さんはその奨学生のうちの一人で、抜きんでて優秀で好人物であったことから祖父のお気に入りでした。そして、風見さんもずっと母子家庭で苦労をされてきたので、祖父に対し大変恩義を感じ、また父親のように慕っていたと聞きました。
祖父には一人娘がいて、それがつまり私の母ですが、その結婚相手の事をあまりよく思っていませんでした。父は一代で会社を興した男でしたが、祖父から言わせれば財を成すためなりふり構わずやってきた野心家で、家格を手に入れるために最初だけいい顔をしてこの家に潜り込んできた信用ならん奴ということでした。
祖父は母や孫の僕たちの事を心配したのか、風見さんに卒業後は父の会社に入って支えてやってくれと頼んだようで、風見さんはそれに従いました。きっと、祖父に恩義もあったし、病気の母親もいて地元を離れられない事情もあったと思います。
実際、風見さんはすごく優秀で、すぐに父の右腕のような存在になったそうです。
陽向は風見さんの一人息子です。私より二つ歳下で、私の弟と同級でした。風見さんは仕事以外にも祖父に会いに来たりと、私の家によく出入りしていたので一緒に来ていた陽向の事は私も小さい時からよく知っています」
「あなたとは親しかったですか?」
「・・・子供の頃はよく懐いてくれて、可愛がっていました。でも・・・私が私立の中学に入り、途中から寮に入ったので・・・いや、その前に・・・」
征治は額に手を当てて、時系列を確認しようとするが、先程から嫌な感じに心臓がドクドク音を立てて、変な汗が滲みだしている。そして、話していいことと、いけないことを分けなければいけないと、どこかでアラートが点滅している。
「確か、陽向が小学4年生の時に風見さんは亡くなりました。事故・・・あるいは自殺と言われていました」
「自殺?」
「車で崖から落ちたんです。普段通りそうにない道だったんで自殺だったのではと大人たちは話していました。でも、陽向は次の日曜に一緒に野球の試合の観戦をしに行く約束をしていたから、絶対自殺じゃないと訴えていました。
翌年、今度は陽向の母親が亡くなりました。今度はかなり断定的に自殺ということになりました。海岸に本人の靴とカバンが揃えて置いてあって、数日後水死体が見つかったんです」
あまりのことに、吉沢が目を見開いて固まっている。
「そのころ、すでにお婆さんも亡くなっていて、陽向は天涯孤独になりました。このままではどこか施設に入れられてしまうと私の母と祖父が不憫がり、父に身元を引き受けてやってくれと頼みました。そんなわけで、陽向はうちで暮らすことになりました」
「えっ、あなたは陽向さんと一緒に暮らしていたんですか!?」
吉沢は一層目を見開く。彼が驚いている原因に薄々感づいていた征治は、覚悟を決めて言葉にした。
「吉沢さん。確認しますが・・・秦野青嵐はあの風見陽向なんですか?」
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