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第24話

夜の10時すぎ、家の電話が鳴った。 「あらあら、こんな時間に誰でしょうね」と言いながらお手伝いさんが電話に出る。 「あら、陽向君?どうしたの?」 お手伝いさんの声に、居間にいた母と征治、弟の三人が一斉に振り返る。母が立ち上がって電話口に近づきどうしたの?と聞いた。 ちょっと待ってねと受話器に話しかけた後、お手伝いさんは母に報告する。 「お母さんが、帰ってこないんですって。いつもは遅くても八時には帰って来るのに。心配になってお勤め先に電話をしてみたけど、本日の営業は終了しましたって音声しか流れないそうで」 母が電話を代わり、話を聞く。やがて、電話口に向かってこう言った。 「わかったわ。もう10時半ですものね。私の方から駐在さんに連絡を取ってみるわ。うちの男の人達にもあたりを探してもらいましょう。陽向君はお母さんから連絡があるかもしれないからおうちにいてね。今から、征治をそっちへ行かせるから。ええ、きっと大丈夫よ」 電話を切ると、母はてきぱきと周りに指示を出し始めた。 家の3人の男性使用人に手早く事情を話し、駐在所に行って指示を仰ぎ必要なら捜索の手伝いをするように言い、お手伝いさんには、なにか常備菜などがあれば弁当箱に詰めるように言った。別のお手伝いさんには、 「確か妹さんが同じ職場だったでしょう?風見さんが何時ごろ退社されたかわからないか聞いてみてくれない?」 と言い、征治を振り返った。すでに上着を着て大きなカバンを持った征治は 「このおかずを持って陽向のところへ行けばいいんだね?何か少しでもわかったら電話をする。あんまり遅くなりそうだったら泊まるかもしれないから毛布も持った。あと陽向に必要以上に心配しないように言う」 そう言うと、母は満足そうに頷いた。そして、ほんとに何もないといいけれどと心配そうに呟いた。 征治は大きな荷物をかかえ、陽向のアパートへ急いだ。陽向が不安な気持ちで一人でいると思うと、早く傍へ行ってやらなければと気が急いた。 アパートに着いて、呼び鈴を鳴らすと同時に「征治だよ」とドアに向かって声を掛ける。 すぐにバタバタという音がして、ドアが開いた。 「征治さん」 ずっと一人で不安だったのだろう。征治の顔を見ると、急に顔がくしゃりと歪み、目に涙が浮かぶ。 「陽向、大丈夫だよ。今、大人の人達が手分けして捜してくれてるから」 そう言って陽向の肩を抱き、部屋の中に入る。 座卓の上には伏せた茶碗とお椀とお箸が二人分並べてあり、真ん中には少し不格好な卵焼きが皿に乗っていた。 「陽向、晩御飯まだ食べてないんだね?」 「うん。いつもお母さんが帰ってきて一緒に晩御飯の仕上げをして食べるんだ。今日は酢豚にするよって言ってて・・・僕、野菜とお肉は切ったんだけど、油で揚げるのは絶対に一人でやっちゃダメって言われてたから、出来なくて。お母さん、遅いから卵焼きを作っておいたんだけど・・・」 「そっか。色々おかずを持ってきたから、陽向ご飯食べなよ」 弁当箱を座卓に並べながら、陽向を促す。しばらく迷っていた陽向はやがてこくんと頷いてゆっくりと食べ始めた。

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