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第25話

その間に征治は電話を借りて家に掛けた。無事、陽向の家に着いたこと、食事をとらせていること、こちらには何も連絡が入っていないことを報告する。 母の方からは、陽向の母親が勤め先は定時の5時半に退社していたこと、近所の駐在さんがすぐに動いてくれ、慶田盛の家の者と立ち寄りそうなところを捜してくれていると伝えられる。 征治は声を潜めて言った。 「母さん、なかなか見つからなかったら深夜になるよ。無理をするとまた具合が悪くなるんじゃない?父さんはまだ帰ってないの?」 「ええ、お父様は今日は接待だって仰ってたから・・・。私は大丈夫よ。それより、あなたも明日学校があるでしょう。朝になっても進展がなければこちらのお手伝いさんをそちらへ交替に行かせるから」 正直、学校どころではないと思ったが、今ここで揉めてもと思い、電話を切った。 風呂を沸かして、陽向を入らせた。陽向は不安からか一人になるのを嫌がる素振りを見せた。 「征治さんは?」 「もう家で入ってきた。それに、電話が掛かってくるかもしれないから」 そう言うと、しょぼんとしながら風呂場に消えた。 もう12時近い。やはり、陽向の母親に何かが起きたのだという現実が迫ってきた。子供を放り出して、夜遊びに行くような人じゃない。それは陽向が一番よくわかっているから不安でたまらないのだ。 小5の陽向には一晩中起きているのは無理だろうと、風呂から上がった陽向に寝るように勧めるが、頑としてきかない。 電話番をして起きていると言った征治の横にぴったりと引っ付いて座り自分も起きているという。そしてその手は征治のシャツの袖をつかんで離さない。 じゃあこうしようと、電話のコードをできる限り引っぱり、座卓を片付け、隣室から持ってきた布団を電話のすぐそばに敷いた。 陽向を寝かせ、自分もその隣に横になり、持ってきた毛布をかぶる。 「ね?これなら眠ってても電話が鳴ったらすぐに気が付くよ。僕も傍にいるから」 こくんと頷いた陽向は、か細い声で言った。 「征治さん、お母さんどうしちゃったんだろう?どこかで事故にあったのかな?それとも急病で倒れて病院に運ばれたのかな?お父さんの時もこんな感じだったんだ。夜になっても帰ってこなくて、お母さんが会社に掛けたら会社にも戻ってなくて・・・」 陽向の唇が震えだす。 「もし、お母さんが帰ってこなかったら、僕どうなっちゃうの?征治さん、恐いよぉ」 とうとう、眦から涙がこぼれ落ちた。 たまらなくなって征治は陽向を抱きしめた。陽向が征治の胸に縋りつく。震える小さな背中を撫でてやりながら、征治はきっと大丈夫と囁き続けた。

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