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発 熱
性欲が無い。
と言えば嘘になるが、最近はセックスしたいと思うことが減った。昔に比べれば、そりゃあ歳は取ったし、気持ちよさより疲れるって感情が先にきてしまい、睡眠優先なのが原因なんだろうけど。
けど!そんな俺でも、たまにはシたいと思う日もあるわけで。
「早く舐めてよ」
「また?」
「いいじゃん」
恋人の大地 は、渋る俺の腕を引っ張って自分の股間に引き寄せた。布越しの性器は既に勃起していて、ヤる気満々らしい。
はあ、溜息が出る。
のそりと顔を上げて、呑気に寝そべるだけの大地のスウェットとパンツをずらし、性器を取り出して少し扱いてから口に含んだ。
すぐに頭を上下させて唇と舌で扱けば、大地が俺の頭を掌で押さえて、動きを止められた。
奥まで咥えて動かず、舌だけでしろって事らしいけど、これって案外疲れる。
少しだけ付き合ってやり、この行為をとっとと終わらせようと頭を動かし、舌を沢山使って大地を追い詰める。
性器の質量が増して堅くなるのが咥内だとよくわかり、もうイくだろうってタイミングが掴める。頬も首も辛いのを我慢して舐め続ければ、押し殺した声と一緒に、俺の咥内へ射精した。
ビクビクと射精を繰り返す性器をゆっくり扱いて、出切ったのを見計らってそっと唇を離す。
そばにあったティッシュを数枚引き抜いて、そこへ精液を吐き出した。
丸くしたティッシュをゴミ箱へ放り投げ、キッチンへ口をすすぎに行く。
「あ、俺明日仕事で帰って来られないから」
「わかった」
大地は服装を整えてテレビを見始めた。
「俺先寝るわ」
「んー」
気の抜けた返事をした恋人をリビングに残して、俺は寝室で眠りについた。
マンネリ、なんだろうか。
この数ヶ月はこんな調子で、俺が大地にフェラして終わり。
最後にセックスしたのはいつだったろうか。
別に自分からセックスしたいと持ち掛けてまでしたいとは思わないけど、まあ溜まるものは溜まるわけで。まあオナニーすればいいだけの事なんだけど。中を擦られて気持ちよくなりたい、と思う日もあるわけで。
だからなのか、最近何というか・・物足りないというか・・不完全燃焼というか・・モヤッとすることが増えた気がしていた。
*****
次の日の仕事終わり、大地が帰ってこないことを今の今まですっかり忘れていた俺は、たまには夜、外に出てみようかと思い立ち、真っ直ぐ帰宅せずに駅前に行ってみることにした。
こうやって一人で出歩くのは、かなり久し振りだ。賑やかな照明をキョロキョロと見ながら、夕飯は何にしようかと考えていると、突然誰かに肩を叩かれた。
「こんばんは~」
「こ、こんばんは・・」
お前誰だよ、と思いながら、わざとらしくニコニコと笑う見知らぬ男に一応言葉を返した。
「一人?これから予定とかある?」
客引きかなんかなのか。
足を止めるでもない俺の横をついてくる男はベラベラと喋り続けてる。
明日も休みだから時間を気にすることなく、一人でゆっくり過ごしたかったのに、変な奴に引っかかってしまった。
「予定あるから」
「えー、なになに?待ち合わせ?デート?」
「い、いや・・」
「ならいいじゃん!俺とデートしよ!」
「はあ?」
唐突に訳のわからないことを言い放つこの男に、つい素が出てしまい眉間に皺が寄ってしまう。
「見ての通り、俺男だけど」
「そんなの知ってるよ!知っててナンパしてんだけど」
「なに、ゲイなの?」
「そう!アンタ俺のちょータイプ!」
初対面にアンタ呼ばわりされたことにびっくりだ。この歳になって初めて男にナンパされたことにもびっくりだけど。
とにかく、今は騒がしいのは勘弁だった。
「悪いけど俺恋人いるし、そういうの興味ないし無理だから」
「ふーん、それが?」
「いや、そうじゃなくて」
「いいじゃんいいじゃん!取り合えず、メシいこう!メシ!」
こんなに言葉が通じない人間に会ったのは初めてだ。
俺の言葉なんて関係ないように、男は俺の手を引いて近くの居酒屋に入っていった。
「取り合えず、生二つ!それと───」
個室に通され向き合うように座り、男は店員を呼ぶと勝手に注文をしだすしまいだ。
俺の意見に耳を貸す気など、さらさらないらしい。
その間に男を観察してみれば、金髪の頭に負けないくらいのはっきりと整ったパーツを持つ顔をしている。歳はまだ二十代だろう。こんなおっさんを選ばなくたっていくらでも若いのが引っ掛かるだろうに。
「君、いくつ?」
「君じゃないよ!大智 って呼んでよ」
「ぶっ?!」
早速運ばれてきたビールに口を付けたところで、まさかの名前に思わず吹いてしまった。
何だこのミラクルは。こんな偶然全然嬉しくない。
「ああ・・そう・・大智くんね・・」
「呼び捨てがいいなー。あ、歳は二十五だよ」
十も下だと聞かされ、なんだか落ち込みそうだ。そりゃテンションにこれだけ差があってもおかしくはないか。
「名前教えてよ」
「南 だよ。ちなみに三十五」
「マジ!?もっと若いと思った」
年寄りで悪かったな、と心で呟き、運ばれたつまみを食べながら酒を進めた。
「っていうか、なんでさっき咽せたの?」
「ああ、恋人と同じ名前だったんだよ」
枝豆を食べる大智にさらっと答えると、その顔がとても嬉しそうに笑った。
「本当に恋人いたんだ。ってことは、南も俺と同じでゲイなんだね」
「あ・・」
話しやすい雰囲気で、なにも考えずに答えていたことに後から気づき後悔したけど、もう手遅れだ。
「恋人がいるのになんで一人でいたの?」
「今日は仕事で帰ってこないんだとよ。だから久し振りに───」
「ん?」
無意識にペラペラと話している自分に気がついて、言葉を途中で止めた。こんな見ず知らずの若造に話す必要はないじゃないか。
「俺の事はどうでもいいんだよ」
「えー、知りたいのに」
知ってどうするんだ。
ふてくされたように頬を膨らませる大智の顔に思わず笑ってしまいそうになった。
その後は、相変わらずベラベラと喋る大智の話に相づちを打った。
当初の予定とは全く違う展開になってしまったけど、こんなに話をしたのも久し振りで、外に出てよかったと思い始めていた。
いい感じに酒が進んだ頃、酔った様子の大智が立ち上がり、何故か俺の隣に移動してきて突然腰を抱かれた。
「おい、酔っ払い」
「酔ってねーよ。ねえ南、俺と付き合おうよ」
「はあ?もう酔っ払いは帰れ」
「付き合ってる奴がいたっていいよ」
「いい加減にしろよな」
腰を抱く手を引き剥がそうとしたけど、酒が大量に入ってるとは思えないほどの力でビクともしない。
「じゃあセックスしよ」
「馬鹿かお前は」
「南、欲求不満でしょ?」
「ッ、そんな事ばっか言うなら俺は帰るぞ」
この馬鹿力!!
俺は逃げを打つように、這ってでもここから抜け出そうとすれば、バランスを崩して押し倒される形になってしまった。
「こういう冗談は嫌いなんだよ。退けって」
久し振りに感じる他人の体温と、重なる股間に思わず反応してしまいそうになる。
どうにかして大智を押し退けたかと思ったのに、次に痛いくらいに手首を掴まれた。力ずくに引き起こされると、そのまま居酒屋を飛び出し、路地裏のラブホへと強引に連れ込まれてしまった。
「ちょっ、本当にやめろっ」
ベッドに放り投げられて、速攻腰に跨がられた。十個も年下のガキに狼狽えるなんてダサすぎる。冷静になって、大智を正気に戻さないといけないのに。
「酔ってる奴がこんなはっきり喋れる?動ける?」
真剣な目つきのこの男が怖い・・と一瞬でも思ってしまった。
俺には恋人がいるのに。好きな奴がいるのに。俺は何やってんだ。
必死に冷静を装っていたが、大智には通用しないらしい。
「怖がんないでよ」
「誰がッ」
「てかさ、一目惚れって本当にあるんだね」
「し、知らねーよッ」
段々と近づいてくる顔を、首を竦めて避けようとしたのに、顎を掴まれ正面を向かされてそのままキスされてしまった。
俺は唇に力を入れて、咥内に入ってこようとする大智の舌を阻止する。けど突然鼻を摘ままれ、息ができないことに慌てて口を開けてしまったが最後。
にゅるっと分厚い舌が入り込んできて、咥内を舐め回される。
「や、めっ」
言葉を発すれば、それを塞ぐようにもっとキスが深くなる。
キスってこんな感覚だったっけ・・こんなに気持ちよかったっけ・・。
ズクン、と股間が疼くのがわかって、太股を擦りよせる。
「嬉しいな、感じてくれた?」
「違っ!」
即、否定したが楽しそうな大智は俺の服を胸までたくし上げると、乳首に吸いついてきた。
熱い舌が肌を舐め回って、小さな突起に押しつけられる。
「っ、調子にのんなっ・・こんなオジサンからかって楽しいかよ」
「ンッ、からかってないって。俺、真剣よ?」
じゅっと、乳首に吸いつきながら言われ、くすぐったさの中に潜んだ快感に下唇を噛んだ。
「俺で反応してくれて嬉しいな」
胸からヘソをなぞった舌が、下っ腹に吸いつくと、大智は俺のズボンと下着を脱がしかかってきた。
俺も俺で、なにされるがままになってんだ。今なら蹴飛ばして逃げられるのに。
結局、親切にケツまで上げてズボンを脱がせるお手伝いまでしてしまった。
感じてない、と否定できないほど性器は勃起していて、先端が濡れている。
「本当欲求不満だったとか?勃起しすぎ」
「ッ、うるせっ」
俺を小馬鹿にした大智は、ヘッドボードから取り上げたローションの小袋の中身を掌に垂らし、その手で俺の性器を扱きだした。
久し振りに他人に触れられたそこは、腰が浮きそうなくらい気持ちいい。
腕で顔を隠して必死に声を我慢した。
グチュグチュと粘着質な音がやけに厭らしく聞こえて耐えがたい。
「ああ、イっちゃいそう。でももうちょい我慢ね。俺のでイって欲しいから」
扱いていた指が睾丸を揉んだと思えば、後孔にたどり着いて、入口を解すように擦られる。
「ちょっ、本気かよっ」
「今更」
上半身を起こして腰を引いたけど、直ぐに追いかけてきた指が中に挿ってきた。異物が挿ってくる感覚にゾクゾクする。力が抜けるように腕が折れてまたベッドに逆戻りした。
「あっ、ッ、うっ」
たかが指一本なのに、中を擦られる気持ちよさに、勝手に声が出てしまう。
「今更なんだけどさ、俺が挿れる方でいいんだよね?」
俺の反応を見りゃわかんだろ。
って言いたかったけど、今、口を開くのは危険すぎる。
「うーん、そろそろいいかな」
いつの間にか増えていた指が抜かれ、体の力が抜ける。そっと口を開いて深く深呼吸を数回すれば、膝を掴まれ脚を拡げられた。
「ま、待って」
「ん?初めてじゃないよね?」ひ
「そ、だけど」
亀頭が押しつけられ、後孔が勝手にヒクつく。
「じゃあいいよね」
ぐっと挿ってくる感覚に慌てて大智の腕を掴めば動きが止まった。
「・・久し振りなんだ」
「え?」
「だ、だから・・セックスするのがだよ!」
「ふーん、本当に欲求不満だったんだ。ならちょっと強引の方が気持ちいいよね」
ニコっと笑ったかと思うと、容赦なく性器を突き立てられ、一気に奥まで挿ってきてしまった。
声も出ない程の快感に全身が震える。
この感覚は本当に久し振りだ。素直に気持ちいいと思った。
「やっば・・キッツ・・」
「ばっか、やろ・・」
下半身を押し付けたままで停止している大智を、苦し紛れに睨んでやる。
「でも、男知ってるだけあるね。キツいけど、中、ちょー気持ちいい」
唇を啄まれると、腰を前後に揺らし、中を探るように抽送がはじまった。ゆっくり動かれると、挿っている性器の形がリアルに感じてやばい。かと言って、早く動かれれば、もう気持ちいいしかわからなくなる。
「南の中、本当やばい。気持ちいいよ」
「はっ、それ・・あっ、だい、ちっ、そうじゃ、なくてっ」
浅いところを小刻みに刺激され、もどかしくて仕方ない。奥まで挿入された時の快感が欲しくて後孔を締めつければ、舌打ちをした大智は激しく腰を振りはじめた。
「ああっ!そこっ!アッ、アッ、気持ちいいっ、奥っ・・ああっ、だいち、もっとしてッ!」
「はは、なにツンデレ?・・マジ、えっろ」
自分が何を口走ってるのかもわからないくらい気持ちよくて、はしたなく何度も何度も強請ってしまった。
ぼんやりする意識の中、余裕そうだった表情が崩れた大智にキスをされながら、好きだ好きだと囁かれた。
ど、どうしよう・・・。
素面に戻った俺は、ベッドにうつ伏せで枕に顔を埋めてぶつぶつ呟き、罪悪感に押し潰されていた。
「どーしたの?まだ腰たたない?」
「ッ!触んなっ」
布団の隙間から入り込んできた掌に腰をさすられ、身を捩って回避する。
「冷たいな。さっきは、大智~もっとしてぇ~ってあんなに可愛くよがってくれたのに」
「ッ、言ってない」
ベッドでやりまくった後、中出ししたのを綺麗にしてやると無理矢理風呂に連れて行かれ指で掻き回された。当然、それだけで済むはずもなく、もう一ラウンドしてしまった。
脚はガクガクするは腰は痛いはでもう・・。
「最悪だよ」
「っていうか、こんなエロい体抱かないとか、南の彼氏、おかしいんじゃないの」
「お前は盛りすぎ」
まだまだ元気な大智の様子にげっそりしながら、重たい体を起こして服を着る。
「えー、帰っちゃうの?」
「当たり前だろ」
「ま、いいけど」
俺が寝ていた所に大智は寝そべり、俺が着替え終わるまで黙って見ていた。
「じゃあな」
「そんなフラフラでだいじょーぶ?」
「うっさい」
ニヤニヤと、からかってくる大智に背を向けて部屋を出ようとすると、後ろ手に手を掴まれた。
「南のこと奪ってみせるから」
うつ伏せの姿勢で頬杖を突きながら、真剣な顔で宣言されて胸が跳ねた。この歳でドキドキするなんて。
俺はその手を振りほどくようにして部屋を出て、駅前で捕まえたタクシーに乗った
車内で、掴まれた手を見れば、大智の体温が蘇ってしつこいセックスが思い出させる。あんなに何度も求められたのは初めてだったかも知れない。
ああ、ばつが悪い。
自分の体がまだこんなに熱くなれることを思い知らされた。
[end]
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