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ワンライ⑦
お題:雨宿り、思い出したくない、ごまかしのキス
タイトル「粘着な欲」
雨が嫌いだ。
特に梅雨時のじっとり汗をかく気温に降る雨が。
そう・・あの一年前も、今日みたいに蒸し暑くてしとしと雨が降る日だった。
学校帰り、急に降ってきた雨に打たれて雨宿りをしてたときだった。
しとしと降っていた雨がみるみるうちに視界が見えなくなるような、雨音で他の音が聞こえなくなるような豪雨になり、身動き取れずにシャッターの閉まった店先で俺は立っていた。
濡れたワイシャツが肌に張り付いて気持ち悪かった。
全く止む様子のないどんよりした空を見上げていると、いつの間にか隣に人がいることに気が付いた。帽子を目深に被り顔はよく見えない。
自分と同じで雨宿りをしているんだろうと気にも止めなかった。警戒もしなかった。
けど、張り付くワイシャツではない、纏わり付く何かが気持ち悪くて、ちらっと隣を見てしまったのが悪かったんだ。
帽子の奥の目と目が合ったと思ったら、俺はあっという間に路地裏に連れ込まれていた。
コンクリートの壁に押し付けられて、雨で透けた肌をワイシャツの上から吸われた。
やめろっ、この変質者!
大声で怒鳴れば相手も怯むだろう。その隙に逃げればいいと思っていた。
なのに、そいつの口元がニヤリと口角が上がって、あろう事か俺のズボンを脱がしにかかってきた。当たり前に抵抗して、殴ってやろうと思ったのに。
下着の中に侵入してきた手に陰茎を握られ扱かれ・・・
気持ちいい。
そう思ってしまった。
こんなレイプまがいの、頭がおかしい奴に、男に!こんな事をされて快感を感じるなんて。
信じたくなった。
自分を裏切る自分のカラダに戸惑っていれば、腰の隙間に侵入てきた掌に尻を撫でられ、その奥にある後孔を突かれ、指を入れられた。
本気でヤられる。
でも、もう遅くて。
すっかり快感に支配されたカラダは、未知の快感を期待していた。
雨が降る中、壁に手を突かされ、尻を剥き出しにされ、男に犯された。
息荒く腰を打ち付けてくる男に狭い中を何度も何度も突かれ、自分の知らなかった甲高い声を上げさせられて、どんどん高まる射精感に気が狂いそうだった。
もう一年も前の悪夢なんて、思い出したくないのに、あの日とよく似た情景に胸がざわつく。
カラダのどこか奥からどろりとなにかが漏れる感覚に背筋がぞわりとした。
「ごめーん!待った?」
その声にハッと我に返り、傘を差して俺に近付いてきた彼女に目を向ける。
「ううん、大丈夫」
「本当に?なんかぼーっとしてた気がするけど」
「本当に大丈夫だって」
純粋に心配してくれている彼女を引き寄せて、傘が目隠しになっているのをいいことに、軽く唇を押し付けた。
俺はこうやって普通に女の子と付き合って恋愛が出来ている。
そう自分に言いきかせ、思い込ませるようにごまかしのキスをした。
「ここにいてもなんだから、とりあえずどっか店に入ろう」
彼女が刺してきた傘に二人で入り、大雨の中に出て行った。
俺は、そんな自分をじっと見つめる男がいた事に気が付かなかった。
[end]
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