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ワンライ⑧

お題:「お返しに」「乾いた唇」 空は黒く染まり、月が遠くに輝きだした頃。 表の賑やかな繁華街とは違う異様な雰囲気に包まれた、とある通りに碧羽はいた。 表とは違い、賑やかな話し声や笑い声は一切しないが、あちこちに人の姿が見えるのは一緒だ。 だが、その人達が身を寄せ合い、人目を気にすことなく唇を合わせたり、腰を擦りよせ合ったりと、欲と欲が集まった場所だ。 「今日は俺を選んでよ」 「別にいいけど、俺、欲深いよ?一回じゃ全然足んないから」 碧羽は声をかけてきた男の耳元に囁いて笑った。 煽られた男は息を荒くして、匂いを嗅ぐように碧羽の首元に顔を埋めてその体を抱き締めた。 あっさりと自分に夢中になる男がおかしい碧羽はにやける顔が収まらないが、首筋に這い出した舌のざらつきに、ジワリと下半身が熱くなっていく感覚に目を閉じた。 「随分楽しそうだな」 堪っていく快感に碧羽が吐息を漏らしたときだ。 突然、正面から聞こえた知っている声にそっと目を開けた。 「お前の男か?」 「…邪魔するなよ」 仁はお構いなしに二人へ近づくと、異変を感じて顔を上げた男をギロリと睨みつけた。 「コイツの相手は大変だぞ」 「ッ、」 咥え煙草の仁は口角を上げながら男の肩に腕を回して屈むと横目で話しかけるが、男は緊張で固まってしまっている。 「邪魔して悪かったな。せいぜい楽しめ」 おかしそうに笑い声を上げた仁は後ろ手に手を振りながらその場を去った。 間の悪い仁に舌打ちをした碧羽が気を取り直して男を誘おうとしたが、すっかりビビってしまった男は逃げてしまった。     「クソっ、絶対わざとだろ」 ぼそりと呟いた碧羽は溜息をついて、その日は大人しく家へと帰った。 ───数日が経ったある夜の日。 高級クラブが軒を連ねるある通りに仁の姿があった。 綺麗に着飾った女の腰を抱いて歩いている仁は、一軒のクラブの前で立ち止まると女と向き合うように体を密着させた。 「ねぇ、次はいつ会えるの?」 「暫く忙しくなるからな。また連絡する」 「絶対よ?」 「ああ」 女は甘えるように仁の首へ腕を絡ませるとキスを強請り顔を引き寄せた。 仕方ないと、仁も咥えていた煙草を外そうと口元に手を伸ばしたときだ。 「こんな所でなーにやってんの、仁は」 一度も名前などで呼んだことのない、わざとらしい声が聞こえると、自分の口元に引き上げた腕は碧羽に奪われていた。 女と向き合っていた体は離れ、力任せに引き寄せられるまま仁は碧羽と向き合う形になった。 「仁さん、この方は?」 自分の男だと言わんばかりに不機嫌そうな女は碧羽を見つめたが、碧羽は特に気にすることなく仁の煙草を奪うともう片方の手で顔を引き寄せた。 そのまま仁の乾いた唇を舐めるようにして奪うと唇を割って舌を侵入させた。 その光景を目の当たりにした女は言葉を無くし、存在は無視させれた。 随分と長く熱いキスをしてくる碧羽に仁は素直でいると、微かに離れた碧羽の唇が動く。 「お返しに来てやった」 End

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