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第2章第3話

神崎は余裕で撮影を終えた。 カメラマンもご機嫌だ。 負けられない。 俺は逢坂に背中を叩かれ カメラの前に立つ。 まだこの場所に立つと 心臓が飛び出そうな俺。 だけど────これだけは 絶対譲れないんだ。 俺は深く深呼吸をし 俺しか知らない暁の顔を 思い浮かべ目を開けた。 カメラがこちらを向く。 しかしなかなかシャッターが 切られない……ダメなのか? 一抹の不安が頭を過ぎりかけた 瞬間、シャッター音と強い フラッシュを浴びた。 油断しちゃダメだ。 俺は暁の顔だけを頭に置き、 カメラマンのリクエストに 耳を傾けた。 「いい顔するね、もうちょっと 優しい顔頂戴」 落ち着いていた。 鮮明に暁の顔とカメラマンの 声だけが俺を支配する。 その様子に余裕たっぷりだった 神崎が喋りを辞め、 こちらに視線を向けていたのは この時、知るよしもなかった。 「君、やるねぇ。めちゃくちゃ 格好良いのが撮れたよ。 AKIちゃんが隣に見えた」 終了後のカメラマンの言葉、 俺には最高の褒め言葉だ。 「お疲れ様、やりゃあ出来るじゃんか。 流風の目かなりマジだったぞ」 「えっ………」 「あれは手加減しないって顔だな」 俺は僅かに滲む汗を拭きつつ 神崎に視線を向けると、 めちゃくちゃ睨んで来た。 あ──暁のファンだっけ。 嫌われたなこりゃ、 まあいいんだけど? これからどうなるかと思うと 少々厄介な気もするが、 まさか恋人ですとも言えないし。 とりあえず俺は視線を外した。

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