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第2章第7話
乱れる呼吸と気持ち悪さに
冬着の衣装とは言え、
僕はガタガタと震え座り込んだ。
「来ないな」
真っ暗な部屋。
声の主は愚か、この部屋すら
全く見えない。
「大丈夫?」
低音で優しい声。
不思議なんだけど、
掴まれた腕は気持ち悪さが無かった。
「────誰?」
思わず声が出たが、自分が
女装姿だと云う事実に口を塞いだ。
ば、バレたろうか…………。
彼の手元がガサガサしたのち光が。
スマホの明かりだった。
「やっぱりAKIちゃんだ、
何にもされてない?あのカメラマン
手が早いて悪評だよ?
良かった通りかかって」
声の主はよく見ると、
神崎流風さん。今大和と
オーディションで戦っている相手だ。
僕は益々口を塞いだ。
「震えてる、怖かった?」
そう言って神崎さんは
着ていたジャケットを
僕に羽織らせた。
「ごめんね?
今は会っては駄目だって
言われてるんだけど、
放っておけなくて」
「………………」
お礼、お礼言わないと────、
でも喋ってしまうとバレてしまう。
どうしよう…………。
「無理に話さなくていいよ、
本当に良かった。とりあえず
楽屋まで送るから」
そっと触れた手は優しく、
僕の中で嫌悪感はまるでなかった。
何故────?
僕は神崎さんに楽屋まで
連れて来られると、
彼は微笑んでこう告げた。
「会ってるところ見られると、
オーディション駄目になるから
俺は行くね!とにかく
マネージャーさん戻るまで
鍵閉めて待ってた方がいい」
「あ………」
お礼を言いたくて僅かに声が漏れたが、
神崎さんはシーと指を口に当て、
そのまま何処かへ行ってしまった。
助けてくれたのに、
お礼も言えないなんて…………。
僕は肩を落として楽屋へと入った。
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