146 / 214

第2章第7話

乱れる呼吸と気持ち悪さに 冬着の衣装とは言え、 僕はガタガタと震え座り込んだ。 「来ないな」 真っ暗な部屋。 声の主は愚か、この部屋すら 全く見えない。 「大丈夫?」 低音で優しい声。 不思議なんだけど、 掴まれた腕は気持ち悪さが無かった。 「────誰?」 思わず声が出たが、自分が 女装姿だと云う事実に口を塞いだ。 ば、バレたろうか…………。 彼の手元がガサガサしたのち光が。 スマホの明かりだった。 「やっぱりAKIちゃんだ、 何にもされてない?あのカメラマン 手が早いて悪評だよ? 良かった通りかかって」 声の主はよく見ると、 神崎流風さん。今大和と オーディションで戦っている相手だ。 僕は益々口を塞いだ。 「震えてる、怖かった?」 そう言って神崎さんは 着ていたジャケットを 僕に羽織らせた。 「ごめんね? 今は会っては駄目だって 言われてるんだけど、 放っておけなくて」 「………………」 お礼、お礼言わないと────、 でも喋ってしまうとバレてしまう。 どうしよう…………。 「無理に話さなくていいよ、 本当に良かった。とりあえず 楽屋まで送るから」 そっと触れた手は優しく、 僕の中で嫌悪感はまるでなかった。 何故────? 僕は神崎さんに楽屋まで 連れて来られると、 彼は微笑んでこう告げた。 「会ってるところ見られると、 オーディション駄目になるから 俺は行くね!とにかく マネージャーさん戻るまで 鍵閉めて待ってた方がいい」 「あ………」 お礼を言いたくて僅かに声が漏れたが、 神崎さんはシーと指を口に当て、 そのまま何処かへ行ってしまった。 助けてくれたのに、 お礼も言えないなんて…………。 僕は肩を落として楽屋へと入った。

ともだちにシェアしよう!