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第2章第40話

ボロボロと涙が頬を伝い ぐちゃぐちゃな顔をして 僕は震える声で必死に言葉にする。 「……僕はズルいんだ。 自分は仕事だって大和以外の人と 仕事したくせに、大和が自分以外の 誰かと仕事するのが嫌だって思ってる」  司はそうじゃないって頭を振りながら 僕を宥めるけど何も違わない。 「僕は勝手だよ……だって僕は全部 わかっていたもの……」  司は僕の言葉に黙り込んだ。 僕もまた先の言葉が見つからず 涙を流すだけだった。  暫く沈黙が流れ、僕が俯いたまま 止まらない涙を拭っていると、 黙っていた司が僕を強く引き寄せる。 「暁の言う通りわかっていたなら止められたの? 人を好きになるってそんな簡単に止められるもの?」 「……」  司の言葉に僕は何も答えられない。 「誰だって人を好きになったら そうなんじゃないの? 暁が今抱えている感情は、 我儘でもないしズルくもないよ」  司はそう言うと僕をギュッと抱きしめ ゆっくり身体を離し、僕の涙を拭った。 「暁は与えられた仕事に 応えているだけ。ただ今までと違うのは 人を好きになった事で、 仕事とプライベートが 上手く割り切れなくなった、そうでしょ?」   「でも……」  司は僕の唇に指を押し当て首を振る。 「暁、仕事に私情挟むなと教えたのは 俺だよ。でも、人を好きになるって 理屈じゃないんだよ。 好きだから出来る事もあるけど、 好きだから出来なくなる事も 沢山ある。この世界は特殊だから、 今の暁には苦しい事が多くなるのかもしれない」 「……」 「だから……」  司は何かを言いかけて難しい顔をした。 そして優しく微笑んでこう続けた。 「だから、暁が辛くなったらいつでも 辞めていいんだからね」  今なんて? 僕は司の言葉に 驚きを隠せず、言葉を探したけど 声にならない。  司の優しさと強さ。 なにより、一番言わせてはいけなかった 言葉――今の僕には反論する 言葉すら持ち合わせていない。 ただただ自分の幼さと 弱さに悔し涙が溢れた。

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