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第2章第12話
僕らは楽屋に戻り
神崎さんがソファに座ったのを
確認すると、僕はある物を手にした。
「お話をする前にこれをお返します」
僕はきちんとクリーニングされた
ジャケットを神崎さんの
前に差し出した。
「あ、これ?良かったのに」
神崎さんはにっこり
微笑みながらこちらを向く。
「いえ、助けていただいたのに、
お礼も言えぬまま失礼いたしました」
僕がそう伝え、その場で
頭を下げると神崎さんは慌てた。
「話さなかったのは
男の子だって事言えなかった
だけでしょ?気にしてないから
頭上げてくれないと」
僕は一度頷いてから頭を上げた。
目の前の顔は優しく微笑むだけ。
「あの────」
「俺はさ、AKIちゃんを
本当に尊敬してるの。
今日男の子だって分かって
尚更その気持ちが強くなった」
え!?どう言う意味?
ポカンとしていると
神崎さんはクスクス笑いながら続ける。
「俺はさずっと本気で女の子だと
思ってた。でもそうじゃなかった」
あれ、どこかで訊いた台詞。
「モデルAKIは男の子だった、
でもそれって凄いよね?」
「凄い?」
「だって男の子があんなに
美しく女性を演じているんだよ?
仕草、雰囲気、ポージング、
視線や見せ方……どれが欠けても
女の子だとは思えない────」
「…………………」
「それってさ、AKIちゃんが
人一倍努力してるからでしょ?
少なくても真似は出来ないね。
それに……女の子より
女らしいよAKIちゃんは」
ほ、褒められてる────、
司にも直接言われたことないのに。
どうしよう………めちゃくちゃ嬉しい。
「あ、あの………」
「尊敬出来るAKIちゃんと
仕事が出来るのは光栄だよ。
俺は今持てる全力でぶつかるから、
宜しくねAKIちゃん」
差しだされたのは大きな手。
でもこれで迷いは消えた。
僕は僕の全力でAKIになる
それだけだ────。
差し出された手を握ると
僕らは互いに良いものに
しようと約束をした。
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