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第2章第15話

未だに慣れないスタジオの 独特な空気感がいつもより 張り詰めて感じるのは、 きっとモデルAKIを 目の前にしてるから。 結局言葉を交わすことなく 俺はカメラ前に促された。 ドキドキ────、 やべ、心臓が口から出そう。 恐らくめちゃくちゃ顔が 引きつっていたのだろ。 側に来たAKIが俺にしか 分からないように口を開いた。 「大和緊張してる?」 俺は思わず頷きかけて止めた。 AKIがカメラに背を向けて 話してる理由を理解したからだ。 俺は小さく返事をすると、 そのままAKIは続けた。 「大和は私が好き?」 私そう言ったAKIの顔は 本物の女性だった。 いつの間にか色気はムンムン 大人の顔で俺の心臓は 見事に鷲掴み。 「………好きだよ全部」 ごくりと唾を飲み込むと絞り出した。 「なら、私だけを見ていて? 私だけを愛して────」 まるで魔法の言葉。 AKIの言葉以降、 周りは全く見えなくなり、 真っ白な衣装を身に纏うAKIだけが 俺の全てを包み込んだ。 カメラマンが何を求めているかも 俺にはもはや聞こえていない。 ただ暁が見せる表情仕草に 俺は虜になっていた。 自分の顔かどんな表情かも 分からず撮影は進み、 ラスト一枚の写真に AKIは涙を見せた。 その擦り寄る顔が、 光る涙があまりに美しくて ただ額を寄せ合うシーンなのに 俺は思わず零れ落ちる涙を 唇で受け止めた。 「OK!ラストめちゃくちゃ良かったよ」 ようやく聞こえたカメラマンの声は アドリブを褒め称えるものだった。 だけど目の前のAKIは涙を拭くことなく 俺に頭を下げ司さんの元へと 行ってしまった。 どうだったの?捕まえて訊きたい。 だけど俺はグッと堪え 逢坂の元へと足を向けた。 「最後のは良かった」 相変わらず無愛想。 でも────その一言は 素直に嬉しかった。

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