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第2章第50話

暁side  僕が目を覚ますと狭いベッドで 大和は僕を抱きしめたまま眠っていた。 スヤスヤと心地よい寝息。  起こすのは可哀そう……。 時間は朝の四時を回っている。 どうしようか……。 話をしなきゃ。そう思っても 疲れて寝ているのを起こすのは気が引ける。  大体起こして何を言うの? オーディション駄目だったね……。 大和が良かったって言うつもり? どんな顔で?どんな風に……。  それを伝えて大和が他の誰かと 仕事するのが嫌だって言うの?  ……そんな事、言えない。  じゃ何を伝えるの……。  言いたい事は山ほどあるのに 言葉が見つからない。 どんな顔して話せばいいのかさえわからない。 「……大和」  穏やかな寝顔。よく見ると 泣いた跡……僕はそれを見て 胸が苦しくなった。  大好きな人に何も言ってあげられない 自分が悔しい。今、大和に掛けられる ピッタリの言葉を現在の僕は持ち合わせて いない事に嫌でも気づかされる。 「大和……大好きなのは大和だけだからね」  僕はそっと呟いてキスを落とし 再び大和の腕の中で目を閉じた。  この時、大和が目を覚ましているなんて 僕は全然気づかなくて、 言葉が見つからない僕をわざと 寝たふりして知らない素振りしてくれていたんだよね。  結局、朝目を覚ましてもお互い 仕事の話はしなかった。  きっと大和もどう言えば正解なのか 分からなかったのかも。  駄目だったごめん。 そう言って僕が困った顔するの 分かったからでしょ?  ごめんね……。  それから僕たちはこれからの事 何も語らないまま僕は神崎さんと 大和は自分の仕事に追われ、 二人で過ごす時間はゼロになり 僕は迷いが出るのを恐れて 連絡も一切取るのを止めた。  この仕事が終わったら……。  どこかでお互いにそう思っていたのかもしれない。

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