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第2章第52話

 予定では明日こちらに来ると言っていた 神崎さんはその夜、1人チェックインした。 僕はその頃、部屋で大和の雑誌をじっくりと 見ていた。時々スマホを気にしながらも やはり連絡はなかった。  コンコン――。 ドアをノックする音に僕は無意識に 雑誌を鞄に隠してドアを開けると、 そこには神崎さんがたっていた。 「遅くにごめんね、こっちに早く来れたから 挨拶くらいしておかないっとって思ったから」  僕は迷ったけど神崎さんを部屋に通した。 「一人ですか?」  挨拶ならマネージャーと来るのが普通。 でもどこにも姿はない。 「あ、ごめんね。マネージャーは明日の便で こっちに来るんだ。こんな時間に部屋に来るなんて 非常識だったかな」  神崎さんはそう言って頭を下げた。 見た目はチャラチャラしているのに、 中身はちゃんとしている。 「AKIちゃん、これから約一カ月、 一緒にやらせてもらうけど宜しくお願いします」  神崎さんは僕に手を差し出した。 一カ月この人と仕事をする。恋人役として……。 「こちらこそ宜しくお願いします」  どこかまだ迷っている僕は彼の手を取ると 握手を交わした。でもその手が僅かに震えているように 感じたのは多分気の所為じゃない。 緊張しているのかな? 「神崎さん?」  握手していた手が離れると神崎さんは頭をクシャっと しながらこう言った。 「俺、緊張しているみたい。 相手がAKIちゃんだからかな」  その意味がどう言う意図で言われたのか 僕にはわからない。ただ僕もまた緊張はしていた。 「ごめんね、本番ではちゃんとやるから。 AKIちゃんの写真集が最高の物になるように 一生懸命やらせてもらいます」  その言葉は素直に嬉しい。 やるからには最高の物を作る。 迷いは棄てなきゃ……。 「僕もいい物が出来るようにやらせてもらいます」  神崎さんは優しく微笑んで最後にこう言った。 「今の俺が出来る精いっぱいでやるよ、 それで全部終わった時、AKIちゃんに 俺と仕事が出来て良かったって心から 思ってもらえるように頑張るから」  僕は誰かと仕事をしたことがない。 なにもかも初めて――。 今の気持ちで最後にこの人でよかったと 思える仕事が本当に出来るかわからない。 それでも後悔はしたくない。 「有難うございます。僕は色んな事が 初めてなので色々教えて頂ければと思っています」  神崎さんは少し照れたようなそんな 表情でニッコリと微笑んだ。

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