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第2章第55話

大和side  結局、話しも出来ぬまま 暁は写真集の撮影の為に日本を離れた。 「今頃、神崎と一緒か」  俺は複雑な心境で溜息を吐いた。 「こら、ボケっとしてるな」  ボーっとしている俺の頭を 逢坂に雑誌で叩かれハッとする。 今の聞かれなかったよな。  俺は叩かれた頭を擦りながら状況を再確認。 実は現在引っ越し中。 親の許可を得てこの狭いアパートを 引き払い、暁の隣の部屋にめでたく 住むこととなった。まあ本人は留守だけど。  殆どの作業は業者がしてくれたが 後始末は自分たちでやらなくちゃと 逢坂の手を借りて掃除をしていたのが現状。 「さっさと終わらせてマンション行くぞ」  暁の事は気になるけど、早く終わらせないと 日が暮れるな。俺は止まっていた手を 動かしお世話になった部屋を後にした。  新しい部屋は広くて綺麗。 必要な家具も全部事務所負担。 俺がマンションに着いた頃には 荷物は全部運び終わっていた。  まあアパートから持ってきた物 なんて数が知れている。  「後は一人で出来るな」  逢坂は部屋を確認。 「帰るんですか?コーヒーくらい……」  一応手伝ってくれたわけだし。 「事務所に戻って仕事あるからいい」  あっそうですか……。 「鍵ここ置いておくから」  逢坂はそう言ってテーブルに鍵を置くと じゃあなとあっさり帰っていた。  広い部屋にポツンと一人。 なんの音もしない静寂な空間。 暁もいない……そう思ったら なんだか寂しさが込み上げる。  ちょっと前まで独りが気楽で こんな気持ちになった事なんてなかったのに。 「暁……」  気が付けば遠いとこにいる恋人の名前を 呼んでソファに座り込む。  俺はごそごそっとスマホを取り出し 文章を打ち込んで手を止めた。 会いたい……そう送ってどうする? 困らせるだけだろう……。  俺は送るつもりだったメッセージを削除して 天井を見上げる。好悪いな俺。 そう思って溜息一つ吐き、 やりかけの作業に戻った。

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