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第2章第56話

暁side  撮影前に入る前に一日だけオフをもらった。 南国リゾートなんていつ振りかな? 撮影で何度か来ているけど、最近は ずっと日本のスタジオばっかり。  日本じゃないし帽子も眼鏡もいらない。 僕はとりあえずラフな格好でお店を巡る。 普段買い物なんて行く時間もない。  いくつかの店を巡ってふと思い出す。 そう言えば大和にクリスマスプレゼント 貰ってから何も返してない……。 僕は胸元のクロスを握りしめて立ち止まった。  この機会を逃したら何にも返せない。 僕は片っ端から店を見て回る事にした。  けれどどの品を見てもこれって物がない。 大和がどんな物を好んでとか、 どんな物が趣味でとか全く分からない自分に 胸が苦しくなった。 「僕……何にも知らない」  忙しさを理由に一緒にいる時間さえ 作れず、相手の事すら把握していない。  僕は店を出てスマホを片手に メッセージを打ちかけ手を止めた。 「風にあたりたいな……」  僕はメッセージを送れないまま ショッピングモールを離れ海に出た。 「……」  穏やかな風と青い海。 僕は暫く海を眺めて浜辺に寝転んだ。 空も日本より青が濃い気がする。    どれくらいそうしていたのか。 「暁?」  突然馴染みのある声に僕は 寝そべったまま声の主を見上げると そこには司が立っていた。 「司……」 「買い物に行ったんじゃなかったの?」  いつもスーツ姿な司も今日はラフな格好。 何にも言わなくても僕の隣に腰を下ろして 寄り添ってくれる。無理に話を訊く事もない。 「司はどうしたの?」 「海が見たくなって。暁は?」 「僕も……」  それ以上は口にしなかった。 きっと訊けば欲しい答えをくれる。 でも僕は最後まで訊かなかった。  結局僕はその日、大和に送る プレゼントを見つけられぬまま 日が暮れるまで海を眺めた。  

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