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第2章第58話
僕は食べる分だけ皿に取ると席に座る。撮影中はなるべく量は食べないように注意はしているのだけど、僕が座ると神崎さんは目の前の席に陣取った。
「AKIちゃんて小食?」
「いえ、普段は食べるんですけど撮影中は控えてて」
ちょっと戸惑いながら応えると、神崎さんは頷きながらプロだねなんて言ってる。僕はニコッと微笑むと食べ物を口に運んだ。
「AKIちゃんてさ、本当女の子だよね」
「え?」
一瞬どう言う意味だろうと考えながら思わず声に出す。
「いや、見た目もそうなんだけど、なんか仕草とか全てさ。男の子とは思えない」
褒められているのだろうけど、正体を明かした今となってはどう返事をすればいいのか正直困る。勿論喜ぶべきなんだろうけど。
「有難うございます」
とりあえずお礼を言って頭を下げると神崎さんはニコッと微笑んだ。
「AKIちゃんは水分とかも取らないタイプ?」
「ある程度は取りますけど、必要最低限しか取りません」
理由として撮影中は照明などで暑くなる為、汗として出やすい。僕はあまり掻かない体質ではあるけれど、必要以外には摂取しないようにはしている。
「神崎さんは違うんですか?」
「俺?俺はまあそんなに気にしてないかな」
どうしても同職の人だと仕事の話になるな。当たり前なんだけど、スタッフ意外とこんな話した事ない僕にはちょっと戸惑い気味。
「AKIちゃんて自分に厳しいでしょ? まあそうじゃなきゃ出来ないか」
自分に厳しい……甘くはないと思うけど半端な気持ちで女性は演じられない。
「本当凄いよねAKIちゃんは」
そこまで褒められると恥ずかしい。僕は照れくさそうに野菜を頬張る。神崎さんは頷きながらパクパクと美味しそうに結構な量を食べていた。
「辞めたいって思ったことはないの?」
暫くの沈黙の後、突然真剣な顔で訊かれた僕は食事をする手を止めた。
「ないです。最初は上手く行かない事も多くて落ち込む日も多かったし、悔しい思いも沢山しましたけど、辞めたいとは思った事ないです」
僕の応えに神崎さんはそうなんだと真剣な表情。こんな顔するんだ。
「強いんだね」
強いかな? 多分それとは違うと思う。僕一人じゃとっくに挫折していたと思うし、司がいなかったら辞めていたと思う。
「司がいてくれたから」
僕がボソッと応えると神崎さんも手を止めた。
「広瀬さんか……優秀だって訊いてる。信頼感強いんだね」
僕は軽く頷くと神崎さんは考え深げ。
「この仕事、マネージャーの存在は大きいよね」
「はい」
僕は残り僅かな食事を済ませると口元をナプキンで拭き取る。同じくして神崎さんも食べ終わり僕たちは一息吐いた。
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