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第2章第60話
大和side
今日は久しぶりの休日とは言え何もすることがない。引っ越しも無事終わって片付けも済んだ。もう暁に連絡を取らなくなってどれくらい経つだろうか……。スマホを取り出して見たもののやはり暁からの連絡はない。やっぱりこっちから連絡しないと来ないよな。そう思いながら溜息交じりに息を吐く。
「今頃何してるんだろうか」
駄目だなこんな事ばっかり考えている。それならいっそう送ってしまえばいいのに。俺は自分の部屋を出て隣の暁の部屋の前へやって来た。留守とは言え鍵は持っている。俺は意を決して中へ入った。
主がいない部屋は静まり返っている。綺麗に片づけられた部屋は殆ど誇りもない。リビングから寝室に移動すると俺は暁のベッドへと転がった。僅かに残る暁の香りが鼻を擽る。
「暁……」
あの日ちゃんと話せなかった。暁が深夜呟いた意味すらも結局訊けないままで……。
今は神崎と一緒……勿論スタッフも広瀬さんも一緒なのは重々承知。暁が浮気なんてするはずがない。そう分かっていても心のどこかで不安が生まれてくる。
ずっと一緒にいたから余計離れていることが不安。女みたいにウジウジするなら連絡一本入れればいいだけなのに。
横たわった身体を仰向けにし天井を見つめスマホを掲げる。たった一言元気? それだけでいい。
俺は文字を打ち込んで送信ボダンを押すのに躊躇った。邪魔になるんじゃないか。返事が返って来なかったら?余計な考えばかり頭を過ってしまう。
どれくらい睨めっこしたろう。俺は意を決して送信ボタンを押した。
「送ってしまった……」
俺はスマホをベッドに投げ出すと目を瞑る。返事は返って来ないかもしれない。何処かそんな気がした。俺はいつからこんな女々しい奴になったのだろう?思えば暁と出会ってからかっこいい姿など見せられずに来たじゃないか。いつもデレデレ鼻の下を伸ばして、煽られっぱなしの俺。
こんなの俺じゃないそう思いながらも暁の前ではシャキッと出来ない。
勿論女と遊び歩いていたなんて事実知られたくもないが、まるで別人だ本当。
「情けない」
本気で誰かに惚れるとこんなにも弱くなるのか。しかも相手は男の子だぞ。ちょっと前まで考えられなかったのに。
グルグルとそんな事を考えている間に俺はいつの間にか眠ってしまった。恋人が留守中に部屋に潜り込んで寝るなんて本当どうしようもない。
どれくらい寝ていたのか目が覚めれば既に時刻は昼の二時を回っていた。
「どんだけだよ」
スマホで時刻を確認した直後、メッセージが来ている事に気づく。俺はゴクリと喉を鳴らすとアプリを開く。届いていたメッセージを見るとそこには元気だよ、連絡出来なくてごめんね……。そう書かれた暁からの返事。
向こうは今何時なのか……。
「暁」
思えばいつも暁は謝ってばかりだ。忙しいのは仕方ない事なのに。俺がそうさせているのだろうか。身体は平気?撮影は上手く行っている?色々返事を打って消した。最終的に送ったのは身体だけには気を付けてその一言だった。暫くしてメッセージ音。
「有難う」
暁からのメッセージはそれだけだった。それでも今の俺はには充分。部屋に戻ろう。俺は暁の部屋を後にして自分の部屋へと戻った。
「しっかりしないと……」
俺は誰に言うわけじゃなく自分に言い聞かせる。次会うときはもっとカッコいい姿が魅せらるぐらい成長していたい。そんな事を思いながらも腹は減るので慣れない料理を始めた。
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