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第2章第68話

大和side  電話をもらった翌日は俺も朝から撮影だった。まだ現場に慣れていない俺はてんてこまい。それでも昨日の暁には驚いた。まさかあんな事するなんて。俺はまだ耳に残る暁の声を何度も思い出していた。 「おい、何ボケっとしてんだ」  逢坂の声にハッとすると、反応が遅かったのか雑誌で頭を叩かれる。 「いって」  俺は我に返り目の前のムスッとした逢坂の顔に視線を向けると怒鳴られた。 「考え事なんてしてる暇ねーんだよ」  まだミスが目立つ俺、そりゃそうだわ……とも思いながら暁の事が頭を離れてくれない。 「今日は撮影の後、雑誌の取材二本こなしてもらうからな」 「はい」  いつになったら逢坂に怒鳴られずに仕事が出来るようになるのか自分でも分からない。  俺は暁みたいに器用じゃないからメイクは全てお任せ。衣装を着るくらいしか自分ではしない。それでもようやくカメラの前に立って緊張しなくなった。だからと言ってカメラマンの指示に応えられてるかはまた別の話。  今頃暁は神崎と楽しく撮影をしているのかな……。いけない雑念が多すぎる。今日は帰宅したら課題もこなさなくてはいけない。遊んでいる暇はないのだ。 「九条君入ります」  スタッフの声に僕はスタジオ入りし挨拶をする。この独特の雰囲気。ちょっと前までガチガチに緊張してたっけ。 「九条君宜しくね」 「宜しくお願いします」    カメラマンとの挨拶を交わすと俺はカメラの前に立った。これでも毎日鏡の前で表情訓練をしているのだ。まあ暁にそうしろと言われたからでもあるのだけど、いつまでも逢坂にいい顔されたくない。 「最初は自然体で行こうか」  カメラマンの指示。その自然体が一番難しいんだよな俺には。俺はふーと息を吐くとカメラに集中した。暁なら例え俺がそこにいたとしても目には入らないだろう。俺もそれぐらいの集中力を身につけなければ。 「もう少し表情柔らかくお願い」  まだ硬い。俺は暁を思うかべ、二人きっりの時を頭に思い描く。暁を想像すると何故か表情も上手く作れた。暁はそんな事しなくてもやれるんだろうけど、俺にはまだまだそれが出来ない。 「いいね、もっと頂戴」  カメラマンの声は僅かに聴こえる程度。俺は集中した。誰より暁に一人前として認めてもらいたい。そりゃ逢坂も唸らせたいのは事実だけど。暁が頑張っているなら俺は何倍も頑張らないといけない。  今回は俺の力不足で相手役を神崎に明け渡した。もっと頑張っていれば今ごろ南国にいたのは俺なのに。悔しくて俺は何日も引きずった。それでも決まった事は変わらない。それなら次のチャンスをきっちり掴めるように今は自分の出来る努力をするって事だけ。 「ちょっとキメて行こうか」  俺はカメラマンの指示に応える様に顔を作る。今日はカメラマンも機嫌がいい。出来るならこのまますんなり終わって欲しいものだ。 「九条君いいね」  俺は落ち着いていた。雑念が多いわりに今日は出来ている。まだ駆け出しの俺は仕事が多い方じゃない。それでも逢坂が取ってくる仕事はどれも文句なんて言えないくらいの代物で、俺を特集してくれるような雑誌だったり、大手の雑誌ばかりだった。逢坂は好きじゃないけど仕事は感謝している。文句も多いが言っている事は正しいものばかりで俺は案外、逢坂が嫌いじゃないのかも。ただ暁の事になると話は別で、どうしてもそこは好きになれない。  休憩を挟んでの撮影は夕方までかかってその日は無事終了。けれど息つく暇もなく次は雑誌の取材。 「今日はまあまあだったな」  これでも逢坂の中では誉め言葉だと分かったのは最近の事。日頃文句ばかりが目立つが出来た時はちゃんとそれなりに言ってくれる。ナンバーワンのマネージャーと言うのも嘘ではなようだ。  衣装チェンジをし俺は雑誌の取材に応える。ここで訊かれるのは恋人はいるのかとかそう言う質問がやけに多い。勿論、暁との事はシークレットなので俺は上手く話を逸らすんだけど、最初はこの質問が苦手で動揺したな。  良くも悪くも嘘が付けない俺は苦労した。ようやくかわせるようになったのは本当に最近。 で、この手が来るって事は好みや理想も訊かれるわけで。雑誌に載る訳でもないのに毎回訊かれるのは堪ったもんじゃない。暁に会いたくなる……。今夜電話でもしてみようか……。

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