210 / 214
第2章第70話
今回のテーマは光と影。僕が白、神崎さんが黒のイメージでの撮影となる。光と影は一心同体。つまり密着した撮影がメインとなる。僕の心臓はドキドキと高鳴り緊張もピーク。そんな中スタジオ入りし僕はスタッフに挨拶をした。
「おはようございます。今日も一日宜しくお願いします」
スタッフ達はそれぞれの仕事をしながら挨拶をしてくれる。
「AKIちゃん今日も綺麗だね。宜しくね」
カメラマンの一言に僕はニッコリ微笑んで答えた。
「神崎さん入ります」
スタッフの声に僕はスタジオ入り口に視線を向ける。神崎さんは黒の衣装に身を包んで僕の所へやって来た。
「AKIちゃん今日は宜しく、スタッフの皆様も宜しくお願いします」
神崎さんはそう言うと頭を下げた。僕もペコリと頭を下げると神崎さんも緊張した表情でこちらを見た。
「出来るだけリードはするけど緊張しちゃって」
「僕もです」
僕等はお互いにクスっと笑い合ってカメラの前に立つ。カメラマンは僕等を見てこう告げた。
「少しずつ距離を縮めていこうか」
僕達はカメラマンの指示に従い最初は少し距離を置いてカメラの前に立った。顔は真剣そのもの。僕も神崎さんもお互いの役になりきりる。
「細かい事は二人に任せるからやってみて」
カメラマンの指示に従い僕等はそれぞれの表情と距離感を作った。光と影。暗闇と光。どうすればそれが表現できるか頭で考えながらお互い距離を縮めていく。
絶え間なく続くフラッシュの雨と緊張感のあるスタジオに僕は冷静にAKIになりきる。
「いいね、もっと距離縮めて行こうか」
もう手の届くところに神崎さんがいる。派手なイメージの彼ではく真剣な眼差し。僕は彼に寄り添うように表情と雰囲気を作り出した。
「神崎君後ろから抱きしめちゃって」
僕の背後に回った神崎さんは優しく僕を包み込むように後ろから抱きしめた。僕は身体を預ける様に彼の腕に納まる。心臓の音が聞こえてしまいそうで僕の緊張感は増した。
けれど背後の神崎さんの心臓の音が僕の背中に伝わってきて、彼もまた緊張している事がはっきりと分かった一つのボーズに何百と言う写真撮影が行われる。一瞬の表情や雰囲気でまるで別物になる写真の中から使うのたった一枚。密着して一時間僕等はようやくOKを貰った。
「少し休憩ね」
僕はその言葉に息を吐く。神崎さんもまた溜息を吐いた。
「やりづらくなかった?」
「緊張はしましたけど大丈夫です」
「良かった」
僕等はお互い話をしながら休憩に入る。喉がカラカラ。僕は司から水を貰うと水分を取った。
「やっぱり勝手が違うか?」
司の言葉に僕は頷く。一人で仕事をしている時とはまるで違う。誰かを意識しながらの役作りはやはり難しい。
「僕は初めてだしね、探りながらやってはいるんだけど」
「そうか」
「でも神崎さんがリードしてくれているからやりづらくはないよ」
司は神崎さんに視線を送りもう一度僕に視線を落とす。
「彼は他のモデルとの仕事は慣れている筈だから」
でも神崎さんも緊張していた。何故だろう? 僕より場数踏んでいるのは間違いないのに。この時の僕はまだ分かっていなかった。神崎さんにとって僕がどう言う存在なのか。
それが分かるのはもう少し後になってからだけど、この時全く僕は気づきもしなかった。
ともだちにシェアしよう!