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第2章第71話

 結局その日の撮影は深夜まで続き、緊張してたせいか最後の撮影が終わった時には疲れ果てていた。 「お疲れ様」  楽屋に戻って司の第一声。今日は本当に疲れた。僕は衣装を脱ぎ私服に着替え鏡の前に腰を下ろすと思わず溜息が零れた。 「大丈夫か?」 「ちょっと疲れただけ」  司は少し心配そうな顔をしてソファに腰を下ろすと、スケジュール帳に目を通し始めた。僕は一秒でも早くホテルに戻りたくて急いでメイクを落とす。それでも次の日のメイクに支障をきたさないようにケアーは怠らない。 「暁、ご飯どうする?食べて帰るか?」 「うーん食事より寝たいかも」  一人の撮影では感じた事のない疲労感。空腹感もないと言ったら嘘になるけど今は横になりたい。 「分かったホテルに帰ろう」  僕は帰り支度を終えスタジオを後にした。ホテルに部屋に戻ると僕はベッドへとダイブ。まるで気絶するように眠った。翌日からの撮影も一日掛かり。疲労感は拭えないけど、撮影を重ねる事に神崎さんと距離感は近くなっていった。残りの撮影も残り僅か。その間、大和との連絡は途絶えたまま。 「AKIちゃん少し疲れてる?」  撮影の合間声を掛けてきたのは神崎さん。撮影の度に僕の身体を気遣い、プライベートな話はしないものの、撮影当初に比べて話の種は尽きなかった。 「大丈夫です。いつも気遣ってくれて有難う」  僕がニッコリ微笑むと神崎さんも微笑んだ。真面目で優しい人。そんなイメージが出会った頃より大きくなっていた。 「もう直ぐ撮影も終わりだね、ちょっと寂しいな」  寂しい。その意味に僕は特に気に留める事なくそうですね。そう応えた。 「AKIちゃん……」 「はい?」 「いやなんでもない」  ニコやかな顔から一辺、真剣な眼差しと低いトーンの声色に僕はドキッとした。けれど神崎さんは言葉を濁してその続きを言う事はなかった。僕の心は少しだけモヤモヤした気持ちになったけど、神崎さんの眼差しは僕から外れた。 「あと数日宜しくね」  暫しの沈黙の後、神崎さんは穏やかな表情と口調でそう言った。僕は静かに頷いて視線を外すと撮影再開の 合図。神崎さんが何を言いかけたのか頭の片隅に置いて僕はカメラの前に立った。  始めは緊張していた撮影も半月もすれば良い意味での緊張に変わった。撮影の合間に垣間見れる神崎さんの人柄が僕の緊張を和らげた。誰かに触れられるのはあまり得意ではない筈だったけど、不思議と神崎さんに触れられるのは嫌じゃなかった。寧ろ落ち着きすら感じる。最初は何故なのか分からなかったけど、僕にとって神崎さんは人として好きか嫌いかで言えば好きって事。この一カ月で感じた正直な気持ち。  僕の中では司や颯真と似た感覚。信頼できる人って事かな?誠実で真っすぐな人。大和とはまた違う感情。始めは大和とやりたかったこの仕事だけど、僕にとっては神崎さんが相手の方が良い経験が出来たのかもしれない。 「もうちょっと自然に行こうか」  カメラマンの言葉に僕はハッとして全てを神崎に任せた。 「良いね、本物のカップルみたいだ」  カメラマンはノリノリにそう言ってシャッターを切る。僕はより良い作品を作る事だけに集中し全て意識を神崎さんへと向けた。  撮影が終わったのは夜の八時過ぎ。今日は少し早めに終わった。泣いても笑っても後三日。悔いのない仕事にしたい。 「暁、お疲れ様」  司の一言で僕は暁に戻る。たまには司と外食でもしようか。 「司、今日は何か美味しい物を食べに行こう」 「そうだな、じゃあ良い店がないか調べてみるよ」  僕は頷いて帰り支度を急ぐ。三十分で支度を終えると、僕は司とレストランへと向かった。 「ここ?凄く素敵なお店だね」 「たまにはこう云う店も良いだろう?」  さすが司、あの短時間でこんなお洒落なお店を見つけるなんて。僕はグーグ鳴るお腹を押さえながら司とレストランへと入った。

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