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第1章第4話
流石に平日の昼間空いてるな。
俺達は窓側の奥の席に座り
コーヒーを注文した。
よく見るとこの人綺麗な顔してる。
モデル事務所って
マネージャーまで顔いいのか?
注文した飲み物が来るとお互い
一口飲みカップを置いた。
「あの……」
沈黙を破るかのように
口火を切ったのは俺の方。
早く話が訊きたい。
「その前に……名前教えてくれない?
まだ訊いてない」
あ、そうか……
確かに名乗った覚えがない。
「九条大和です」
「名前も格好いいね、いくつ?」
「18です」
「18だとまだ高校生?」
うっ、訊きたい事が
沢山あるのに隙がない。
「来年卒業です」
「そう……進学は?」
少し困った様子の表情を見せると
広瀬さんはクスっと笑い
「ごめんね、質問ばかりで、
でも大事な事なんだ」
そう言ってコーヒーを口にする。
「大学はいくつもりです……」
「なるほどね、後もう一つ」
まだあるのか……俺の話より
AKIの話が訊きたいのに……。
「なんですか?」
カップを置き俺を舐めるように
全身に視線を送る、な、なに!
「手脚長いね、見たところ
身長もかなりある、いくつある?」
「確か……185」
「やっぱりあるね、
顔も良いしモテるでしょ」
うっ痛いとこ突くな!それはあまり
答えたくないのだけど……。
「ま、まあ…」
俺は気まずくなり視線を逸らす。
遊び人だったと出来れば知られたくない。
広瀬さんは何かを感じたのか
それ以上突っ込んでは来なかった。
「で?AKIの話でしょ?
大和君が気になるのは」
「え……はい」
歯切れが悪い返事をすると
またクスっと笑われた。
うっ……仕方ないじゃないか
こんなに好きなのに
何の情報もないんだ。
それが突然俺の前に現れたんだ
ガッツいて何が悪い。
「正直だね大和君は……
まあ嫌いじゃない」
褒めてくれたのか?
「AKIの何がそんなに好き?」
「え……全部」
そう答えると益々笑われた。
「……変ですか?」
「い、いや、写真だけでそこまで
好きになれるのは凄いね」
そりゃ……顔しか知らないけど……
笑うことないじゃないか!俺は本気だ!
「いけませんか?俺本気ですよ」
少しムッとした表情で睨みつけ
わざと咳払いをした。
「ごめん、ごめんAKIは綺麗だからね」
そう綺麗だ。まるで計算し尽くされた
ような端正な顔立ち!
俺が一瞬で目を奪われたあの瞳。
でも、俺は写真だけ……の人は
生で見て生のAKIを知ってる。
なんだか胸が痛い。
これを嫉妬と言うのだろうか……?
初めてだ……こんな気持ち。
さっきまでケラケラ笑っていたのに
ピタリとやめ広瀬さんは
急に真剣な顔になる。
「AKIに会いたい?」
当然だ。答えは一つ。
「会いたいです」
しかし広瀬さんは少し困った様子。
俺まずい事言っただろうか……?
暫しの間、なんだろこの雰囲気。
気まずい。笑われるのもムカつくが
黙られるのも困る。
「大和君てさ」
「は、はい」
「女の人が好き?」
は?何その質問。
女を好きじゃなきゃなんだと言うんだ?
「どう言う意味ですか?」
広瀬さんはコーヒーを飲み干し
「もう一度聞くけど、
AKIを本気で好きなんだよね?」
だからなんだと言うんだ?
何度訊かれても答えは同じなのに。
「好きです……誰より」
「そう分かった……じゃあ、
これから言う事は他言無用、極秘だ」
ごくんと唾を飲む。
俺は首を縦に振り頷いた。
「実はAKIはね…」
耳をダンボにして傾ける。早く……。
「AKIは女じゃない……男だ」
「へ?」
何の話?何かの訊き間違いでしょうか?
俺は鳩が豆鉄砲喰らったような
顔しているだろう。
「だから……AKIは男だ」
男?確かに男と言った……。
何を馬鹿な悪い冗談だ。
よりに寄って男?笑えない。
「なんの冗談です?
からかう為に声かけたんですか?」
流石に俺も黙ってられない
そんな馬鹿な話があるか!
「大和君……信じられないかもしれないが
事実だ、あれは女装だ」
俺はあまりの事に言葉を失い
思考が完全に停止した。
広瀬さんが俺を呼んでいた声も
聞こえなくなった……。
男?馬鹿な……俺が男を?
駄目だ……何も考えられない……。
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