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第1章第10話

目覚めが悪いと言うより 複雑な心境と言うべきか。 結局あれから一睡も出来なかった。 重たい身体を起こし 水を取りにキッチンに脚を向ける。 「はぁ……」 思わず溜息が漏れた。 俺は冷蔵庫から ミネラルウォーターを出し くしゃくしゃな 頭を気にしながらソファに 腰掛け水を飲み部屋に 視線を落とす。決して広くない 部屋には雑誌があちらこちらに散乱し 嫌でもAKIの顔が目に入る。 「………………」 視界に飛び込んだAKIの顔………。 その瞬間、昨夜の夢が頭を駆け巡り 身体がカッーと熱くなるのを感じた。 「…………っ」 ヤバい落ち着け。 朝から何を考えてるんだ。 俺は振り切るように頭を振り断ち切る。 「マジでヤバイ…」 思わず出た言葉に自分でも呆れる程だ。 ふーっと深呼吸し とりあえず目につく雑誌を片す。 今は危険だ。 雑誌を片付けながら、 はぁ…とまた溜息。 既にAKIの顔は目に焼き付いている。 何をしてたって 消えることはないだろう。 「くそ」 俺は雑誌を手にしたまま 身体を投げ出し天井を仰いだ。 なんで、なんで男なんだ。 女なら悩まなくて済んだのに。 知りたくなかった事実に 俺は完全に翻弄されていた。 身体を横向きにしたり 仰向けにしたり、 とにかく落ち着かない。 「駄目だ……」 ガバっと身体を起こし頭を掻き毟る。 電話が鳴ったのはその時だった。 俺は相手を確認せず イラついた様子で電話に出た。 「もしもし」 「あ、九条君?」 九条?俺を苗字で呼ぶ奴誰だ? 頭が追いつかない。 返事をせずにいると 「広瀬だけど、昨日電話くれたよね?」 広瀬……広瀬……あ、俺に 知りたくない事実を突きつけた……。 やっと電話に頭が追いつく。 「なんですか?」 自分から電話しといて この台詞はおかしいが はっきり言ってイラついてる。 そもそも初対面の俺に 何故男と打ち明けたのか。 「機嫌悪そうだね……」 本当に察しがいい。 まあこれだけ分かりやすくして 感じない奴もどうかと思うが…。 「別に……大丈夫ですけど……」 大丈夫な訳がない、当然それは 声にも出ているが 広瀬さんは続けた。 「……昨日ごめんね?撮影で出れなくてら 気がついたのが遅くて寝てるかと」 確かに昨日は早く寝た……。 そのおかげでとんでもない夢を見たが。 「今から会えないかな?」 今更会ってどうする?…… でも訊いておきたい事もある。 少し悩んだ挙句 「いいですよ……昨日のカフェで」 そう返事を返した。しかし、 「いやカフェじゃなくて 事務所に来てくれかいかな? 場所教えるから」 なんで俺が────そうも思ったが 「分かりました、何処ですか?」 俺は広瀬さんに住所を訊き 怠い身体を引きずり 身なりを整え家を出た。 確かこの辺だけど、 ピルが建ち並ぶオフィス街。 辺りを見回しキョロキョロ。 周りはスーツに決めた大人が行き交う。 浮いてるな俺。自分のラフすぎる 身なりを気にしながら迷っていると 「九条君こっち」 待っていていくれたのか 広瀬さんが声をかけてきた。 「ここ?」 想像していた建物とは大違い。 もっと小さいかと思っていた。 見る限り数十階はある立派なビル。 モデル事務所ってこんなでかいの? キョトンとしていると広瀬さんは 「とにかく中入ろ」 俺は頷く間もなく後ろをついていく。 エレベーターで25階。 シンプルだがかなりお洒落な内装。 「ここで待ってて」 ドアの前、広瀬さんはそう 言って何処かへ行ってしまった。 1人取り残された俺は 「失礼します」 誰もいないと分かっていながら ドアを開けた。応接室だろうか? そんなに広くない部屋に ソファとテープル。 ドアを締めソファに腰を卸すと 目に飛び込んで来たのは 俺が惚れたあの広告。 思わず声が出そうになり 慌てて口を塞いだ。 び、ビックリした。 「こんなところに飾るなよ……」 ポスターに向かついつい独り言。 そわそわして落ち着かず数分────。 「お待たせ」 ドアが開きコーヒー手に 広瀬さんが入って来た。 俺はその場に立ち上がり頭を下げる。 「いいよ、楽にして」 そう言って広瀬さんは コーヒーを差し出した。 楽にしてと言われてもこの広告が…。 「あ、これ?気にしないで」 あっさりその一言で終了。 この人は気にならないんだろうか、 まあ毎日見てるのだろうから当然か! 言われるままに座り 出されたコーヒーを口にする。 「考えてくれた?昨日の話」 単刀直入……昨日も 余分な話はまるで無かった。 この人は余計な話は嫌いなのか? そう思いながらも 「いいえ……まだ」 そんな余裕ない。 AKIの事実に頭はパニック、 だからあんな夢を見る。 「じゃあ電話してくれたのは何故?」 持っていたカップを置き一呼吸。 「……してですか?」 「え?」 「どうして俺に話したんですか?」 俺はついつい口調がキツくなり 表情は固くなる。 「……AKIの事?」 広瀬さんは静かに答えた。 「そうです、何故俺にそんな 大事な事話したんですか?」 まるで睨みつけるように視線を向ける。 「それは……」 けれど広瀬さんは まるで動じていない。 「それは……なんですか?」 俺は引かずに訪ねた。 なんだよその後は…? 暫しの沈黙──── それを破ったのは思わぬ言葉……。 「会ってみる?今……」 えっ…!数秒思考が止まる…………。 我に返りちょっと待て!何その展開……。 「待ってね」 そう言うと 広瀬さんはなにやら 電話を取り出しかけじめた。 「……!」 「あ、AKI?今応接室なんだけど ちょっと来て」 それだけを伝え 広瀬さんは電話を切った。 「今来るから」 ………はい?な、なんでそうなる? 思考が追いつかないまま コンコンとドアをノック音。 ちょっ、ちょっと待て! ドクンと心臓が脈打つ。 待て開けるな────完全に パニック状態の俺に構わず 「入れ……」 広瀬さんの一言でドアは開いた。 俺はその場で固まり 頭が真っ白になる。 ただただ聞こえたのは 自分の心臓が脈打つ音だけ。 ……………… …………………………………… ……………………………………………………………………。

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