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第2章第38話

大和side  今日に限って撮影が立て込んでるとか 信じられない。一息吐けたのは 次の撮影が始まるまでの二時間。 拘束されているのは変わらないが とりあえず緊張からは解き放たれた。 「お前、呑気だな」 ムッ!相変わらず棘がある逢坂は 楽屋に入ってくるなり俺を睨みつけた。 ちょっとソファで横になっていただけだろう? オレはムスッとしながら身体を起こす。 「オーディションの事なら考えてますよ」 俺が気にしないわけないだろう? はっきり言って不安だよ。 逃げ出せるなら逃げたいくらいだ。 がしかし――、 「いや、そうじゃなくて……」 返って来た反応はいつもの意地の悪い感じ ではなく、冷静で且つ真面目なトーンで 俺は思わずポカンとした。 「お前、暁から何も訊いてない?」 「……何の事ですか?」 逢坂の問いに言いようのない 不安が俺の胸を締め付ける。 「訊いてないならいい」 ちょっと待て、それはないだろう。 「暁になにかあるんですか?」 「そのうちわかる。 まあゆっくり休め」 逢坂はそう言って楽屋を 出て行ってしまった。 ゆっくり休めって無理だろうが。 俺は逢坂の言葉が引っかかって 休憩は愚か、その後に 控えた撮影まで影響し 最悪の一日になった。 いつもなら出来が悪い 俺に対して嫌味連発な逢坂も 今日は何も言わない。 それが余計に俺を不安にさせた。 けれど、どうしても訊けない。 俺は帰りの車の中で、 暁宛に何かあったのかと 文章を打ち込んで結局 送信できずに消した。

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