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おまけ:水泳部編 1
「あっ、先輩、あの卒業アルバムって中身はあるんですか?」
いつものように先輩の部屋に遊びに来て二人でだらだらしている最中、ふと例の本を入れていたアルバムのカバーが目に入ったので、僕は先輩に聞いてみた。
「ああ。
お前にあの本隠してるの見つかったから、もう中身は元に戻したけど」
「じゃあ見たいです!」
「は? アルバムを?
お前そんなん見たいの?」
「はい! 見たいです!
だって高校時代の先輩の写真ですよ?
見たいに決まってるじゃないですか!」
「あー、それはそうか。
俺だって転送してもらったお前の高校の時の写真、何回も見たしオカズにも使ったしな」
オカズには使わないでくださいよ!とツッコミたいところだが、僕だって先輩の写真を何度もオカズに使ったので、ツッコむ資格はまったくない。
「そうか、だからお前、隠してあったあの本を見つけたんだな」
「そうですね。
まあ普通の友達のアルバムでも見ようとするかもしれませんけど、わざわざ本人がいない時にこっそり見たいとまでは思いませんし。
……あっ! そんなことよりもアルバム見せて下さいよ」
「ああ、そうだったな」
そう言うと先輩は本棚からアルバムを取り出し、個人写真のページを開いて僕に渡してくれた。
「わー、学ラン姿の先輩も素敵ですね。
けど顔は今とそんなに変わってないかな」
「まあ三年やそこらじゃそんなに変わらないよ。
えーっと、あと確か体育祭だったか球技大会だったかの写真が……」
そうして先輩が探してくれた写真に、僕は目を見開いた。
「え、何ですかこれ!
先輩、すごくかっこいい……」
クラスメイトとハイタッチをしているところを写した写真のジャージ姿の先輩は、今ともさっきの個人写真とも違って、すっきりと短く整えた髪型がよく似合っていて、すごくかっこよかった。
その笑顔すらも、こころなしか僕が知っているものよりも爽やかな気がする。
「あー、そうか、これ一年の時か。
この頃はいっちょ前に色気づいてて美容院とか行ってたからな。
たぶん、これも写真も撮られてるの意識してかっこつけてるし」
「え、先輩にもそんな時があったんですか?」
言ったら悪いけど、僕が知る先輩は素材はいいのに身なりには気を使わないタイプの人だ。
まあ、そんなふうで女の人にモテるタイプじゃなかったからこそ、男の僕にチャンスがあったとも言えるわけだが。
「まあ、ある意味ちょっとした黒歴史だな。
俺、子供の頃からヲタ趣味だったんだけど、高校入ったばかりの頃は女の子にモテたいとか思って、ヲタ隠してかっこつけてたんだよ」
「そ、それはモテたでしょうね……」
高校生の時にスポーツやっててこの顔で、しかも本人がモテる努力をしてモテないはずがない。
僕がちょっと複雑な気分でそう言うと、先輩は大して嬉しくもなさそうな顔で答えてくれた。
「まあ、確かにそれなりにモテたよ?
それで告白してくれた子と付き合ったりもしたけどな……。
話しててもマンガやアニメの話は出来ないから全然楽しくないし、デートで映画行っても付き合わされた恋愛映画より隣のスクリーンでやってるアニメの方が見たいと思ったりしてな。
なんかもう、そこまでして女の子と付き合うの馬鹿らしくなって、ヲタ趣味隠さなくなったらすぐに振られたし、それ以降は全くモテなくなったよ」
それは何というか、すごく先輩らしいエピソードだ。
けど。
「先輩がモテなくなってくれてよかったです……」
それはある意味、ものすごく失礼な言葉だったけれど、先輩は嬉しそうな顔をして僕のことを撫でてくれた。
「あっ、そうだ!
部活の写真ってないんですか?」
「おう、あるぞ」
そう答えて先輩が探し出してくれた写真に、僕の目は釘付けになった。
「わー……」
感動のあまり、それ以外に言葉が出ない。
水泳部時代の先輩は、僕が期待してたようなビキニタイプの競泳水着ではなく、ぴったりとした半ズボンみたいなタイプの水着姿だったが、それでも真っ黒に日焼けした上半身をおしげもなくさらしているその写真は、ただただ素晴らしかった。
「そんなにこの写真気に入ったのか?
だったらこのアルバム持ってくか?」
「いいんですか!?
……ってさすがにそういうわけにはいかないですよ。
先輩の卒業アルバムなんだし。
別にいいんです。
もし見たかったら、また先輩のうちに来たらいつでも見られるし、……それに、写真の先輩より本物の先輩の方がずっといいし」
「……そうか」
そう言うと先輩は嬉しそうな顔になって、僕をぎゅっと抱きしめてくれた。
そうしてそのまま何となくいい雰囲気になり、僕たちはいつものようにえっちになだれ込んでしまったので、先輩の水着写真のことはそのまま忘れてしまっていたのだが。
それから数日後のことだ。
僕は例によって先輩の部屋に遊びに行ったのだが、ドアを開けてくれた先輩を見て固まってしまった。
「どうした?
早く入れよ」
僕の手を引っ張って中に入れてくれた先輩は、驚いている僕を見てニヤニヤと笑っている。
ずるい。完全に確信犯だ。
「先輩、その髪型……」
数日ぶりに会った先輩は、今までのような邪魔にさえならなければいいというように伸びがちだった髪型とは違い、先日高校のアルバムで見たのと同じ、すっきりとした短い髪型に変わっていた。
髪型が変わっただけだというのに、先輩はいつも以上にかっこよくなっていて、僕は先輩から視線を外すことが出来ない。
「いやー、久しぶりに美容院行ったよ。
似合うか?
……って聞くまでもないな」
先輩はしてやったりと言わんばかりの笑顔で、僕にさらに爆弾を落としてくれた。
「実はこの下に水着もはいてるんだ。
見たいか?」
「見たいです!」
思わず食い気味に答えると、先輩はにやりと笑った。
「見たいんだったら……わかってるな?」
そう言いながら先輩が僕に渡してきたのは、見覚えのあるコピー誌と水着一式だった。
「ええー……」
「嫌ならいいんだぞ、嫌なら」
僕が思わず不満げな声を上げると、先輩は本と水着をひっこめようとした。
「待って下さい!
やります、やりますから!」
先輩のやり口に呆れてしまったこともあって反射的に不満を口にしてしまったけれど、僕だって別に先輩のマンガを再現するのが嫌なわけじゃない。
両想いになってからはその必要もなかったから再現はしてなかったけれど、水着姿の先輩とエロいことが出来るなら、むしろ喜んで再現したい。
僕が大慌てで叫ぶと、先輩は満足そうにうなずいて、再び本と水着を渡してくれた。
時間が無かったこともあってか、今回の本はだいぶ薄い。
ストーリーも単純だし、えっちも最後まではしていなくて、これを再現するのは簡単そうだ。
しかし簡単ではあるのだが、マンガはなぜか僕の方だけが少し恥ずかしい設定になっていた。
「あの、先輩。
何でこれ、僕だけビキニなんですか?」
渡された水着を開いて確認してみるが、やはりマンガ通りのビキニタイプのものだ。
対して先輩の方はアルバムで見た半ズボンタイプの水着で描かれていたので、たぶん今はいているのも同じものだろう。
「何でって、それはお前、俺のオカズなんだから、お前の方がエロい格好なのは当然だろう」
「えっ、先輩まさかまだ例のマンガをオカズにしてるんですか?」
「え? してるけど……って、むしろお前、オカズにしてないの?
あれ、使えないか?」
「いえ、使えないっていうか、僕は先輩とした時のこと思い出してすることが多いんで……」
……って先輩、何を言わせるんですか!
先輩とは毎日会えるわけじゃないから、お互い一人でオナニーすることがあるのは当然だけど、別にわざわざどうやってやってるかまで教えあう必要なんてない。
「そっか、お前は脳内イメージだけでイケる方なのか。
俺はやっぱり絵がないとだめなんだよな。
お前が代わりにエロい写真撮らせてくれるっていうなら、別にマンガをオカズに使わなくてもいいんだけど」
「えっ! しゃ、写真はちょっと、勘弁してくださいよ」
「そうだよな。
そんなもん撮って、万が一にでも誰かに見られたら嫌だしな。
まあ、それはさておき、お前がビキニなのは別に見た目だけの問題じゃないんだよ。
そっちの水着、中学の時にはいてたやつだから、俺にはちょっときつくてな。
はけないわけじゃないけど、勃ったらかなりまずいことになりそうでさ」
「あー……それじゃ仕方ないですね」
「ああ、悪いな。
ま、はいてみせるだけでよければ、後ではいてやるから」
「はい、楽しみにしてますね。
じゃあ僕、着替えてきます」
僕が水着一式を持って風呂場に行こうとすると先輩に止められた。
「別にここで着替えたらいいだろ。
俺も脱ぐから」
「あ、はい」
先輩がさっさと服を脱ぎだしたので、僕も慌てて後ろを向いて着替え始めた。
ビキニの競泳水着は案の定というべきか、僕にはぴったりのサイズだった。
とりあえず水着だけをはいて振り返ると、先輩はすでに水着姿でこちらを見ていた。
「うん、やっぱりエロいな」
「……先輩も」
両想いになってからは、こういう時にも欲情している表情を隠さなくなった先輩は、今にも僕に襲いかかりそうな獣の目をしている。
水着姿の方もアルバムで見た写真と比べたら日焼けもしてないし筋肉もちょっとは落ちているけれど、やはり実物は素晴らしかった。
先輩の裸なんてもう見慣れているはずなのに、なぜか全裸でいる時よりエロく見えるのが不思議だ。
「キャップも早くかぶれよ」
先輩にうながされ、僕は慌てて黒い水泳帽をかぶった。
仕上げに先輩に帽子の上からゴーグルをつけてもらってから、僕らは再現を始めるために、いったんキッチンに出た。
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