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第3話

「外に出たい?」 「ほんの少しで良いのです」 あのまま疲れて眠ってしまった私達だが、朝起きると既に光長は起きていて、私に珍しく要望を言う。 「よいぞ。ただし、私の傍を離れるな」 「ありがとうございます」 今日はたまたま仕事がなく、父上から休みをもらっていた。光長に私の袖を持たせ、下駄を履かせる。 「綺麗ですね」 しきりに辺りを見渡しながら、鮮やかな紅葉を踏み歩く。折角なら私たちが出会った橋に行こうか。そう言えば彼も嬉しそうに頷く。そう言えば何故、光長が川を流れてきたのだろう。本人にも聞く気は無いが足を滑らせてしまったのだろうか。 「この橋、見たことがあります」 「縁橋ぞよ。人と人の縁を結ぶ場所だ」 「縁を?」 「私達の出会いもこの橋が繋いでくれたのかもしれん」 少し涼しくなった風が私達に向かって吹く。紅葉はゆらゆらと川の下を漂っていて、光長が嬉しそうに眺めている。そんな穏やかな流れの中、一つの強い風が体に吹きつけた。 「信義殿っ、ここにおられましたか」 突然後ろから大声を出すのは、良き友人である藤原殿。彼にだけは光長のことを話していて、光長を見ても何も言わなかった。 「どうしたのだ、そのように慌てて」 「大変です。母上様が何者かに毒を盛られ危篤状態であります。最後に信義様の名前を呼んでおられまして。お願いします。お急ぎください。」 「母上が?」 辛い知らせに頭が真っ白になり、藤原殿の後に続いて追おうとするが、袖を掴む手が力強く離れない。はたと立ち止まると、光長だった。 「光長。母上の元にそなたは連れて行けぬ。すまぬが、離れに戻っていてはくれないか?道が分からなければここにいても良い。後で必ず迎えにくる」 はっきりとした言葉で、光長に母上のことを話した訳ではないが、この一年ほどで私の立場や身なりなどは話している。だから、母上の元には連れていけないことも分かっているはずだ。私は初めて、この子に苛立ちを覚える。話は聞こえていたはずなのに、それでも離さない光長が何を考えているのかわからなかったからだ。我儘なら後でいくらでも聞いてやると、力強く手を振り払い、その拍子に彼は前のめりになって転ぶ。 「い・・・・・・っ、信義、様・・・・・・っ」 両目いっぱいに涙を溜め、信じられないと頬を押さえる光長の姿で我に返るが、藤原殿の声で私は彼の元に駆けた。光長の私を呼ぶ声がいつまで経っても耳から離れなかった。

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