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第5話 光長side
鮮やかで、水のように澄み切った空の秋。虫が煩く鳴く草の真ん中で薄い布に包まれて捨てられていた私は、綺麗だという感性もない小さな赤ん坊だった。小さな目をただ薄暗い紫色の布が覆っては、世界から一人遮断されていた。
「お前を拾ってやったんだ。これぐらいは出来るだろ」
大きな鍬を差し出し、広い畑に放り込むのは家主様。今も近くでは無防備に放置され、牛や馬に踏み潰されている捨て子も多い中、この人に運良く拾われた。感謝こそしているがそれ以上の感情はない。私は仕事の道具にすぎず、育ててもらった覚えもないからだ。
畑仕事を終え、領主の信義様が畑をご覧に来ることを聞く。赴くとそこで見たのは人に囲まれ、笑顔で声を張る貴族様。豪華な衣服を着て、荘厳な立ち姿は目を見張るが、私にとってそれは酷く歪んで見えた。家の面影から彼らを眺めていると、後ろから聞き慣れた声が私を呼ぶ。
「捨て子」
薄汚く笑う男は、家主様の本当の息子だった。
「これも宜しく」
渡されたのは馬の飼料とブラシ。課せられた仕事を毎日押し付けてくる彼に逆らえば、ご飯を抜かれたり、暴力を振るわれる。酷い目には合いたくないから黙って頷くが、彼の分も仕事を終わらせて帰っても、家に居場所などなかった。
またある日の昼過ぎ。最近日課になっている花摘みをするため、花の咲く川の近くに赴く。生憎雲行きが怪しかったので早めに切り上げるつもりだが、今にも降り始めそうだ。
「女かよ」
嫌悪の篭った声に顔を顰めると、声の主はまたあの息子だった。愛されている癖に、何かと私に突っかかる彼は子供みたいで、一睨みすると気分を害したのか大股で近づいてくる。
足先にあった石を拾うと、こちらに向かって投げてくる。顔に当たり痛みが伴うけど気にせず花を摘む。抜いては流して、また抜いては流す。こうやって花を流していれば、いつか誰かが気づいて私を迎えに来てくれるのではと、起きるわけがないのに淡い希望を持って。
何の反応も起こさない私の髪を引っ張り、岩の転がるその場所に叩きつける。流そうと思っていた花を取り上げられ、無惨な姿で川に投げ入れられた。あれでは駄目だ。綺麗な花じゃないと来てくれない。
壊れた花を掴もうと体を起こし、川の中に入ると冷たい温度が体を纏う。ここも私を受け入れてくれない厳しい場所だと、少し裏切られたような気がした。焦ったように捨て子と呼ぶ声が聞こえたけど、構わず花に向かって手を伸ばす。
「わっ」
がくんと足を深い溝に取られ、一気に川に引きずり込まれる。肩まで浸かる水は私を地に上げてくれず、降り始めた雨と共にひたすら流され続けた。同じく流れていた木の板をなんとか掴むも、体力のない私は長くは持たず、緩やかに、されど確実に意識を奪われていった。
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