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第19話
今日はいっぱい褒められた。
お医者さんのかすみ先生が昴さんを怒ってたから、止 めてって言いたかったけど、声が出なかった。
でもかすみ先生はちゃんとわかってくれて、ごめんねって言った。
ぼくじゃなくて昴さんに言って欲しくて、でも昴さんは笑ってて。
よくわからないなあって思ってたら「やさしいね」って先生が言う。
やさしい?ぼく、やさしいの?
昴さんを見たら、困ったように先生が正しいって言ってた。
じゃあ昴さんが間違ってるの?
頭の中がハテナでいっぱいになって、ぐるぐるし始めたら先生の声がした。
「昴が元気な方が嬉しいでしょう?」
こくん、って頷いたら、そのためにはって先生が説明してくれる。
あ、でも頷いたら昴さんが悪い事してることになっちゃうのかな……?
悪い事だとまた怒られちゃう……?
「お前が正しいと思うならそれでいいんだぞ?」
昴さんは優しく言ってくれたけど、ぼくは昴さんが怒られるのは嫌だなあって思った。
そしたら、昴さんが「俺のこと、頼む」って言うからこくんって頷いた。
たくさん考えたからかなあ。
夜になったらとっても眠くなって、いつもならみやびお兄さんが帰ってくるまで起きていられるのに、今日はダメみたい。
ふあ。
あくびしちゃったら、昴さんがふふって笑う。
「眠いなら寝ていいぞ?雪藤も今日は遅くなるみたいだから」
そうなの?
じっと見たら言いたいことが昴さんに伝わったみたい。
「おー。風呂はさっき入ったしな」
寝るか?という昴さんに、小さく頷く。
「うし。じゃあおやすみ。また明日」
優しい優しい声に、心のなかでおやすみなさいってお返事してお布団に潜る。
ふかふかのお布団。
気持ちいいって思ってたら、あっという間に目の前が暗くなった。
「 」
急に、誰かの声がして目を開けてみる。
けど、真っ暗で何も見えなくて。
変だなあって、手を動かそうとしたけど、なぜか動かせなくて。
「 ……くーん」
誰かの声は少しずつはっきり聞こえてきた。
昴さんでもみやびお兄さんでもない声は、ぼくを呼んでいるみたい。
「墨染 君。起きてるか?」
誰だろう。
ぼくのお名前じゃないよ?
ぼくは"律"だよ?
ぴくりと身体を動かしたら、その声の人が「起きたかな」って動いて、ぼくの目の前が明るくなった。
ぱちぱち瞬きして顔を動かして、周りを見ようとしたらじゃらって音がした。
これ、は……?
昴さんは?みやびお兄さんは……?
「おう、起きたか 」
ぼくの横にしゃがんだひと、それは紛れもない"おとーさん"だった。
「今日はな、お前の躾をしてくれる人を連れてきたんだ」
しつけ、って?
「おはよう" "君」
(……!!この、人知ってる……)
にっこりと笑ったその人は、ぼくが昴さんのお部屋に来る前。
まだ、前のお部屋にいた時に、おとーさんが連れてきた男の人。
どうして?
さっきまで、昴さんと一緒にいたのに。
はっは、って息が苦しくなる。
(こわ、い……っ怖い……っ)
男の人の手が伸びてくるのに、ぼくの身体は動いてくれない。
(たす、けて……昴さん……!)
じゃら、って鎖が音を立てる。
震えるぼくをみて男の人とおとーさんはニヤニヤって笑った。
「さあ"颯 "君。楽しい楽しいお勉強の時間だよ?」
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