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第22話
目を開けたらまた真っ暗だった。
けど、さっきとは違ってた。
身体が動かせないのは一緒、だけど。
(…………あったか、い……?)
首だけ頑張って動かしてみたら、昴さんの顔がすごく近くて、身体が固まる。
けど、心臓はドキドキしてるのに、前みたいな緊張とは違う不思議な感じ。
暗さに目が慣れてきて、よくみたら昴さんの腕がぼくの背中にあって、ぎゅってしてくれてたんだってわかった。
「……すばる、さん……」
そんな気なんてなかったのに、声が出て、起こしちゃうって慌てて口を塞いだ。
「ん……起きたのか」
遅かったみたい。
薄く目を開けた昴さんがふあ、って欠伸をして、ぼくの後ろにあった腕を戻した。
身体は動かせるようになったけど、少し寂しい。
「大丈夫か?苦しい所とか、ないか?」
いつものようにふるふるって首を振り、口を開けかけて、閉じる。
「……律?」
す、って昴さんの手のひらが伸びてきた。
少しドキドキしたけど、さっきの夢の中とは全然違ってて。
早く触って欲しいって思った。
ぽん。
頭に触れた手のひらに、そのまま髪を撫でられる。
「……声、出したい時は出していいんだぞ」
あったかい手は大きくて優しくて。
気持ち良いって思いながら、昴さんの声を聞く。
「俺も雅 も、霞 だって……お前と話したいと思ってる。だから」
声を聴かせてくれ。
「すばる、さん……」
その言葉にすんなりと、自分でもびっくりするくらい簡単に声が出た。
昴さんも一瞬驚いたみたいだったけど、すぐに「律」とぼくの名前を呼んだ。
「……もう一回聞くぞ?痛い所とか、ないか?」
「……はい……えっと、その」
「ん?」
「昴さんが、ずっとぎゅってして、くれたから……もうだいじょぶです」
「……そうか」
良かった。
影でちゃんとは見えないけど、昴さんが何となく笑った気がした。
「ありがとう、ございます」
身体を起こして、お辞儀する。
昴さんは「おー、えらいな」って褒めてくれた。
くしゃ、と再び髪を撫でられる。
やっぱりその手は気持ち良い。
目を閉じてたら、ずっとずっと昔のことを少し思い出した。
おかーさんがまだ元気だった頃の、優しいその手のひら。
(そっか……だから怖くない、のかな)
ちらりと目を開けた先、今までで一番優しい瞳 で見つめられて、胸の辺りがきゅん、ってした。
その感じにびっくりして慌てて目を逸らす。
逸らしたのに、胸はまだドキドキしてる。
それが昴さんに伝わっちゃったみたい。
「……律?」
どうかしたか?
その瞳 にドキドキが早くなる。
「な、んでも……ないです……っ」
心配させたくない。
ふるふるって首を振って言ったら、少し笑う声がして、手が離れていく。
(……あ…………)
もっと撫でて、とは言えなくてただ目だけで昴さんを追う。
「うし。じゃあ今日は雅にいっぱい美味いモン作ってもらおうな」
立ち上がった昴さんは「もう少し寝てていいぞ」って言ってくれたけど、夢の中より昴さんの隣にいたかったぼくは、「起きます」って言ってベッドから下りた。
「みやびお兄さん。いっぱい、ありがとうございます」
あのあと、昴さんがお電話して少ししてみやびお兄さんがお部屋に帰ってきた。
玄関の所にお迎えにいっておかえりなさいして、言ってみた。
「……り、律君が……っ喋ってる!!」
「っうあ……!みやびお兄さ……っ」
ぱあって顔を明るくしたみやびお兄さんにぎゅうって抱きつかれた。
苦し、って言おうとして顔を見たら、お兄さんの瞳 にはうっすら涙が浮かんでて。
「良かった……良かったねえ律君!!」
自分の事みたいに喜んでくれるみやびお兄さんに、胸が温かくなる。
「えと、お二人が……たくさんたくさん……優しくしてくれたから、です」
ぼくの想いがちゃんと伝わるように、頑張って言葉を選ぶ。
今までだって、みやびお兄さんはちゃんとぼくの言いたい事当ててくれたけど。
自分で言えることって、大切って思ったから。
「だから、ほんとに、ありがとうございます」
もう一回お礼をする。
うんうん、と聞いてくれていたみやびお兄さんだったけど、奥のお部屋から昴さんが顔を出したから、少しだけ身体を離した。
「いつまで玄関にいんだよ。ほら、朝メシ出来たぞ」
こんがりとした甘い匂いがお部屋からしてくる。
「この匂いは……フレンチトースト、かな」
「……ふれんち?」
「あー……えっとね甘くて美味しいんだよ。昴さんが得意な料理のひとつ」
甘くて美味しくて、昴さんが、得意……?
どんなご飯かはわからなかったけど「食べれば分かるよ」ってみやびお兄さんが笑うからこくんって頷いて、お部屋に戻った。
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