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第28話

――――ぼく、最近昴さんのこと、考えると、へんなんです」 「変?」 「(ここ)がきゅーってして、からだが緊張、するんです」 一体どういう話術で引き出したんだろう。 橘さんは律君の昴さんへの気持ち――本人はわかっていないようだけれど――"恋心"を聞き出してしまった。 「そうなの……」 真剣な表情で律君と話す橘さん。 「ぼく、もう昴さんのこと、怖くないのに……」 霞先生も珍しく真剣な面持ちでそれをじっと見つめている。 なるほど。 長い間、従順でいることで与えられてきた偽りの愛情。 それしか知らない彼にとって自分の中にを抱くのは初めてなわけで。 気持ちと身体の反応が合っていないように感じるのだろう。 「そうねえ……律君」 橘さんの優しい声に、彼はゆっくり顔をあげる。 「それは、変な事じゃないわ」 「……ほんと、ですか……?」 ええ。 彼女は目を細め、「それはね」と静かに微笑む。 「"恋"っていうの。律君は昂牙ちゃんのこと、大好きになったのねえ」 「ぼく、昴さんに……恋……?」 「そう。ずっと一緒にいたいとか一緒にいるとドキドキするとか……そういうこと、ない?」 「それは……その……」 こくん。 素直な、可愛らしい頷き。 橘さんは勿論、俺も先生も思わず口元が緩む。 「恋、したらずっと一緒に、いられますか……?」 「そうねえ……昂牙ちゃんも同じ気持ちなら問題ないわね」 その言葉を聞いて一瞬目が輝きかけ、すぐしょんぼりとしてしまった。 「……どうしたの律君。昂牙ちゃんのことだもの、きっと同じ気持ちのはずよ?」 しかし、その言葉に律君はふるふると首を振った。 「昴さん、他に恋してる人……いるから、ちがうと思います」 (…………ん?) 「……どういうこと?」 こそ、と先生が訊ねてくるけれど。 「すみません、初耳です」 確かに昴さんは自分の感情を隠すことに長けてはいるが。 さすがに色恋関連の事を見破れないほど、付き合いは浅くない。 それは、つまり。 (律君なにか……勘違いしてる?) 勘違いしてしまうきっかけ……何かあったろうか。 記憶をたどり、思い出そうと首を捻る。 そして――――――――……あ」 写真を見つけたあのとき。 "それから、昴さんの妹で俺の大事な人" このセリフを、律君が上の空で聞いていたとしたら。 妹と俺の、の部分が聞こえてなかったとしたら。 「ああーっと、律君!」 思わず出てしまった大きな声に、久しぶりに律君がびくりと肩を揺らした。 「ちょ、雪藤君!」 「っう、すみません……っ律君もごめんね」 すとんとしゃがみ、彼と目を合わせる。 「あのね、律君。律君が言ってる"昴さんが恋してる人"って」 自分の懐に入っていた手帳を取り出し、目的の場所を開く。 「この人、でしょう」 「…………!」 ぴくん、と律君が反応を見せ「え!?」という二人の声が重なる。 「(あかり)ちゃんじゃない(か)」 「……??」 二人の声が綺麗に揃ったことで、律君は俺たちを見た後、首を傾げた。 「やっぱり……この人はね、確かに昴さんの大事な人ではあるんだけど……恋の相手じゃないんだよ」 「ちが、う……んですか?」 「うん。この人は昴さんの妹。そして恋人だったのは、俺」 だから、と律君の髪を撫でる。 「もし律君が昴さんを好きなら、我慢しなくていいんだよ」 その言葉に律君は俺を見つめて、息を吐く。 そして長い逡巡(しゅんじゅん)のあとゆっくりと顔をあげた。 みやびお兄さん、といつもより少し強く名前を呼ばれる。 「ぼ、ぼく……っ昴さん、のこと……好き、です」 「うんうん」 「ずっと一緒に、いたい……です」 「うふふ、よく言えたわ律君」 さりげなく律君の両側を挟む、霞先生と橘さん。 とりあえず俺は正面に座ることにした。 「それじゃあ作戦を練らないと」 「さく、せん?」 「そう。昴さんが律君のその気持ち、ちゃんと気付いてくれるように」

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