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第33話
ふわり。
ぼくの大好きな匂いに包まれる。
せっかくみやびお兄さんとかすみ先生とたちばなさんがお手伝いしてくれて考えた作戦なのに、半分もできなかった。
あとでごめんなさいしなくちゃ。
けど、ちゃんとできなかったけど。
昴さんがぎゅうってしてくれて、たくさんたくさん撫でてくれて、ぼくはすごくうれしかった。
温かくて気持ちよくて。
半分だけ、夢を見てるみたいなふわふわした世界の中で昴さんのことを呼ぶ。
「おー」
ぼくを落ち着かせてくれるその声。
もっと聴きたいのに、するする夢の中に引っ張られていくみたい。
"だいすきです"
ちゃんと聞こえたかなあ。
大好きな匂いに包まれたまま、その匂いがゆらゆら揺れる。
あ、そっか。
昴さん、抱っこしてくれてるのかな。
少ししてふかふかな……たぶん昴さんのベッドに乗せてもらった。
初めてこのお部屋に来たときは落ちつかなかったふかふかのベッド。
でも今は、昴さんの匂いがいっぱいですごく安心する。
「ん……」
気持ちいい。
ぎゅ、ってシーツを掴んでみたら「ふっ」って昴さんが小さく笑う声がした。
「律……」
名前を呼ばれたけど、起きちゃいけない気がして、心の中でお返事する。
(なん、ですか昴さん……)
ギシ、って音がして身体が少し沈んだ。
ぼくの髪に昴さんの手が触る。
その撫で方がいつもと少し違くて、何だろうってどきどきした。
ちゅ。
(……!)
髪に触る、昴さんの唇。
思わずピクッって反応しそうになったけど、頑張って堪える。
(さ、さっき……どらまで見たような……)
「おやすみ、律」
男の人が、好きな女の人にしてた。
これ以上はまだ早いってみやびお兄さんが消しちゃったけど。
でも、それって昴さんもぼくが好きなのかな……?
昴さんもぼくに"恋"してる……?
どきどきって心臓がうるさくて、昴さんに聞こえちゃいそうな気がして。
今起きたらきっと、昴さんの顔見れない気がするからぎゅう、ってブランケットを引っ張って昴さんから顔を隠す。
「っと……起こしたか……?」
昴さんが慌てたみたいに呟くから、ぼくは頑張って寝てるフリをした。
「ん……すば、る……さん……」
「――……夢の中でも俺といるのか?」
また小さく笑う声がして、昴さんの視線を感じる。
「……お前は何があっても、俺が必ず守るからな」
今度は唇じゃなくて、手のひらだった。
いつもと同じ、優しくぽんぽんと撫でられる。
もう一度「おやすみ」と耳元で言った昴さんはそのまま、お部屋を出ていった。
(…………ふう、どきどき……した)
まだ静かにならない心臓の音。
このまま眠って明日の朝、隣に昴さんがいてもぼく、ちゃんと「おはようございます」って言えるかなあ。
ぼくがお部屋でどきどきしてるなんて、知らないはずの昴さんはきっと明日もいつもと変わらない。
(……起きちゃった方が良かったかなあ)
そしたら、昴さん、ぼくのこと好きって言ってくれたかな。
ぐるぐる、ぐるぐると色んなことが頭の中で回る。
みんなで見た"どらま"とか作戦のこととか。
(……たのし、かった……の、かな)
いっぱい緊張してどきどきして、うれしい時とは違う、この感じ。
考えているうちにまた、夢の中に引っ張られていく。
(……おやすみなさい、昴さん)
明日もまた、たのしいといいなあ。
みやびお兄さんたちにもおやすみなさいって呟いて、ぼくはゆっくり眠りに落ちた。
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