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第41話
小鳥さんの鳴き声で目が覚めた。
何だか頭がぼーっとしてずきずきする。
「……っ」
(……あたま、いたい)
あれ?
いつもなら隣で眠っているはずの昴さんの姿がない。
でもお布団の上に、昴さんの羽織がかけてあって。
ゆっくり、お布団から身体を起こすと、枕のところにお水とお手紙が置いてあった。
"律へ 起きたら飲むこと。まだ休んでていいからな"
昴さんの綺麗な字。
はい、って心のなかでお返事して、お水を飲む。
ちょっとだけ、痛いのが取れた気がする。
(もうちょっと……)
ごくごくとたくさん飲んでいたら、ザリッてお外から音がした。
「……!」
ちょっとドキドキして、お布団に潜ろうか考える。
けど、昨日の夜……このお家のお兄さん達は顔は怖いけど優しいお兄さん達だったのを思い出して、ふうって息を吐く。
(怖くない……だいじょ、ぶ……)
呪文みたいに心のなかで唱えていたら、障子が開いた。
「あ、律君はよっす!」
「きたみ、お兄さん……?」
開けたのがまさかの人でちょっとびっくりした。
(あ、いけない。ご挨拶しないと)
おはようございます。
ぺこって頭を下げたら、お兄さんは嬉しそうに笑った。
「昨日色々絡んじゃったから、謝りにきたんす」
「きのう……」
言われて、ぼんやりしていた昨日の夜のことを思い出す。
『ぼく、昴さんとずっと一緒に……』
(……なんか、ぼく、恥ずかしいことさけんだ気がする)
顔が熱くて、ごまかすみたいに首をふった。
「だ、だいじょぶです!いっぱいお話してもらって、ありがとうございます」
「いやあ……俺も酔ってたとはいえ、あれは無いよね」
ごめん。
謝るお兄さんの姿は、子犬みたいで。
(どうしよう……)
なんとかしてお兄さんを元気にしなきゃ。
そう思っていた時だった。
「おお律、起きたか」
「昴さん!」
聞き慣れた、優しい声に思わずそっちを見る。
障子の所に昴さんが立っているのに気づいたきたみお兄さんは、すって立ち上がる。
仲直りは済んだか?
律君優しいから、許してくれたんす。
そうか。
そう言うと、入れ替わるように昴さんはお部屋に、お兄さんは廊下に立った。
「具合、どうだ?大丈夫か?」
昴さんはしゃがんでぼくのほっぺを触る。
大きいいつもと同じ手のひら。
(あったかくて、落ち着く……)
「お水飲んだから、へーき、です」
「本当か?」
じっと見つめられると、顔が少し熱くなる。
一緒に赤くなってたみたいで、昴さんが焦ったような顔をするから、思わず「ふふっ」て声が出た。
「……!律お前……」
「ぼく、だいじょぶです」
あれ、昴さん、耳が赤くなってる。
なんでだろ、って思ったけど昴さんが名前を呼んだから「はい」ってお返事した。
「一応……朝メシは軽いの用意したんだが、食えるか?」
「はい、食べられます」
「ん。じゃあ、持ってく……律?」
立ち上がろうとした、昴さんのお着物のすそ。
ぼくは無意識でぎゅって掴んでた。
「あ、ごめんなさい」
ぱって離したけど、昴さんはにこって笑ってもう一回座ってくれた。
「ごめんな、目ェ覚めた時いなくて。寂しかったか」
「あ、えと……」
ぽんぽんしてくれる手と優しい目。
すごく心臓がどきどきする。
「…………はい」
なんて言おうか迷ったけど、寂しかったのは本当だから頷いた。
「そうか……」
悪かった。
もう一度謝った昴さんは、お外にいたきたみお兄さんに声をかける。
(そっか……きたみお兄さんいたんだった)
ちょっと恥ずかしくなって、膝にかかってたお布団をぎゅって握る。
「はい、昂牙さん」
ひょこって顔を出したきたみお兄さんの顔は見れなかった。
「悪ィが、律の朝メシ持ってきてくれるか?」
「はい、秒で持ってきます!」
「いや溢すなよ?」
「任せてください!!」
ざざざ、って音がしてお兄さんがいなくなった。
そしたら。
「……!」
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
「えと、すばる、さん……?」
ぼくの背中と頭に昴さんの手があって、耳元に昴さんの息がかかってて。
ぎゅって、されてる……?
「あんまり、心臓に悪ィことすんなよ……」
低くてちょっと、いつもより焦った感じの声に身体がぴくって跳ねる。
「俺は……お前のこと、大切にしてェんだから……」
まるで自分に言い聞かせるみたいに、優しく呟いた昴さん。
でも、なんだかつらそうな感じがして。
「昴さん……」
元気を出してもらいたくて頑張って、昴さんがしてくれてるみたいに腕を背中に伸ばす。
(せなか、おっきい……あったかいなあ)
「ぼく、ちゃんと大切、してもらってますよ……?」
「……そういう意味じゃ「お待たせしました!」……っはー、北海クン空気読めよ」
きたみお兄さんが入ってくる数秒前。
パッと離れた昴さんの顔は真っ赤で、ちょっと苦しそうだった。
「す、すみませんっ!!」
「まあ来てくんなかったら、それはそれでヤバかったからいいけどよ」
ふう、って息を吐いた昴さんがお兄さんに笑いかけた。
「サンキュな、北海」
「じゃ律君!あとはごゆっくり!」
嬉しそうにお辞儀して、お兄さんはまたざざざって走っていった。
「うし。じゃあ律、朝メシにすっか」
「はい!」
(あれ?気のせい、だったのかな……)
いつの間にか真っ赤だった顔もちょっと苦しそうだったのも消えて、昴さんはいつもの顔に戻っていた。
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