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第61話
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「どうかしたのか、北海 」
臨 と別れ、「お疲れ様でした」と南雲 に迎えられ、車に乗り込み早数分。
帰りということもあり、助手席に座っている北海だが心なしいつもと違う。
「え?いや、何も無いです……なにも!」
そうは言うものの。
慌てたような、なにかを隠しているような雰囲気は気にするなと言う方が難しい。
(さっき何かあったのか……?)
あったとするなら、俺が電話中の『仲良ししてたんですよう』と臨が言っていた時ぐらいだが。
ちら、と、バックミラー越しに南雲と目が合う。
自分が聞きましょうか、と言う意味を含んだ視線だったが、一瞬迷い、静かに首を横に振る。
「個人的な話で言いたくねえなら構わねえが……」
少しだけ怒気 を孕 ませた空気にぴくっと北海の肩が揺れる。
「仕事に支障出すなら許さねーぞ」
分かってるよな、と先ほど部屋にいた時とはまた違う圧に、背中姿でも彼が冷や汗をかいてるだろう心境なのが伝わってくる。
「だだ、大丈夫でふ」
「…………」
「……お前な……大事なトコで噛むなよ」
思わず脱力しかけてしまう。
南雲ですら、ちょっと引いている。
「す、すみましぇ………うう、すみません」
「なーにをそんなに緊張してんだか。怒らねえから言ってみろ」
「そ、れは……その――――」
「ん?」
ぐるぐると頭の中を色々なことが駆け巡ったのだろう。
少しの間動きを止め、やがてぶつぶつと何事か呟いた。
「露、草さんとの、約束」
「おお?」
「っ……破ったら……針千本……飲まされる……」
「……これはこれは」
「臨の奴……」
暗示というか催眠というか……とにかくその類にかかっているのか、北海はそればかりを呟く。
「あー……どうすっかな」
北海自身のことであるならば放っておこうと思ったけれど、違うのなら話は別だ。
先ほど別れたばかりの彼 の番号を呼び出す。
『はーい。お忘れ物ですかー?』
「リンちゃん、ウチのカワイー北海クンに何したの?」
単刀直入に用件をぶつける。
一言で察したらしい彼は、けれど『ナ・イ・ショですー』とわざとらしく言う。
「の・ぞ・む・クン?」
同じように返せば、数秒の沈黙の後『仕方ないですねー』とため息が返ってきた。
『…………昂牙さんが良いって言うなら、オレが口出しする話じゃないんで』
(……俺?)
珍しく素に戻った彼は聞き返す間もなく『北海君とお話させて下さい』と言ってきた。
「……ああ、分かった」
北海、と肩を叩き耳にスマホを当てる。
「……!、ぁ露草さん……――――」
内容までは分からないが、臨が何言か彼に言っているのが聞こえる。
「は、はい……失礼します」
「終わったか?」
静かに頷く北海。
「ん。話す気になったか?」
「……ええ、と」
「俺が良いってンならって、臨は言ってたけど」
促すとやっと決心がついたのか、おずおず口を開く。
「その……――――」
電話している間にあったことがぽつぽつ呟かれていく。
雪藤への尊敬、俺と雪藤の過去に興味をもったこと――そしてそれを臨に咎められた事。
「……すみません、聞きませんから……っ、安心してください!」
思わず息を吐いたことに、俺が呆れたと思ったのか謝る北海。
「ああ、別にお前に対してじゃねーよ。なんだ、その……気ィ使わせて悪かったな」
「……怒らないんですか?」
「面白がって聞こうとしてるわけじゃねえなら、怒る必要無いだろ」
それとも違うのか、という問いに彼はぶんぶんと手と首を振る。
「んで?聞きてえのか、俺と雪藤 のこと」
「!……いいんですか、聞いても?」
「ああ……」
(俺と雪藤に関してだけなら、そこまで隠すようなことでもないしな……)
「その代わり、すっきりしたらちゃーんと仕事、頑張れよ」
ぼすん、と座席に背中を預け、昔のこと――――雪藤と出会った頃のことをゆっくり思い浮かべた。
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