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第2話

眩しい朝日に目を覚ます。 欠伸をしつつ、起き上がり布団の横に置いていた着物に手を伸ばした。 今日は本宅へ報告に行かなくてはならないからだ。 昔気質で古き良きものを大切にしている組長は、俺がスーツで行くことを好まないのである。 きゅ、と帯を締め、襖を開く。 「おはようございます、若!!」 ずらりと並んだ男達が声を揃えて頭を下げる。 「ああ、今日も頼んだぞ」 「若、頼まれていたものです」 「お、サンキュ」 雪藤は仕事が早ェな、と肩を叩く。 「今日は報告と外回りしてくっから、何かあったらコッチな?」 仕事用携帯を示せば、分かってますと雪藤は頷いた。 それに苦笑しつつ、全員に向き直り。 「じゃあお前ら行ってくる」 威勢の良い返事を背後に聞きつつ、スッと開けられた車の後部座席に乗り込み、ドアが閉められる。 おはようございます、と運転手が振り向いた。 「はよ。今日も頼むわ」 「本日はどうなさいますか?」 「あー……親父んとこに報告行ってから、数件回収だな」 「かしこまりました」 重低音を響かせ、車が動き出す。 債務者リストに滞納者リスト、先週回収に行っていない店を確認する。 (さて、どう行くかね……) ふぅ、と煙草の煙を吐き出し思案を巡らせる。 天立組の組長はどちらかと言えば、昔ながらの義理と人情を一番大事にする人だ。 だが、だからこそ不義理を働くものには容赦しない。 (……今日は滞納優先するか) 親父の機嫌にもよるが、と一人苦笑すると緩やかに車が停止する。 ほぼ同時、着きましたという涼やかな声に顔をあげた。 「ん、サンキュ」 門をくぐり、砂利を踏む。 音にぱっと顔をあげた男衆が姿勢を正した。 「お帰りなさい!」 「ただいま。親父、いるか?」 「へえ!組長なら奥にいらっしゃいまさ!」 竹ボウキで道を掃いていた彼は元気よく答えるとどうぞと俺を中へ促した。 襖の前に正座し、息を整える。 「お早うございます。天景 昂牙、参りました」 「入りなさい」 低いキリッ、とした声に失礼致しますと襖を開ける。 少しだけ白髪の混じった、けれど老いを感じさせない灰色の髪。 還暦を過ぎながらも、まるで獅子のような鋭さを感じさせる瞳がより一層彼を若々しく見せているのだろう。 「定例報告に参りました」 促され、書類を取り出す。 今週の回収分やら店の売り上げ情報、この間の主催代理等いつもより少し多い報告を終え、ふうと息を吐いた。 「うむ。ご苦労だったな」 腕を組んで聞いていた組長は、珍しく柔和な笑みを浮かべる。 「……どうかなさいましたか」 天立組の周りは最近、比較的静かだ。 だから心持ちも穏やかなのかもしれない。 車の中で抱いていた不安が払拭され、ほっとする。 「いや、ずいぶんと頼もしくなったと思ってな」 「若頭として、やるべきことをしているだけです」 「……そうか。それじゃ、その調子で頑張ってくれや」 「はい、ありがとうございます」 どちらかと言えば組長として、より親としてのような言葉。 頷いて、報告書をしまう。 「なんだ、もう帰るのか?」 「え?あ、はい。この後また回収に回らないといけないので」 「たまには、ゆっくりしていけばいいだろうに」 「そんな一般家庭みたいな事言わないで下さい……まあ、今度時間がある時にでも」 では、と席を立ち部屋を後にした。 「いってらっしゃいやし!」 来た時と同じく、元気良く送り出され車に乗り込む。 「初めはどちらに?」 運転手からの言葉に、一番近い回収先の住所を伝えた。 「かしこまりました」 少し休むか、と車の外を眺めようとした瞬間、ピリリリリと着信音が鳴り響いた。

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