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第7話

今日はマンションに帰る。 調査報告ついでに買い物頼むわ。 彼からそんなメールが届いたのはついさっき。 そこは何かあった時に避難するための場所。 当然の如く焦りかけ、買い物?と首を捻る。 悪いが、なるべく急ぎで来れるか? 付け足すように続けて届いたメールに、分かりましたとだけ返信し、画面を消した。 「ただいま戻りました」 「おーおかえり。早かったな」 「なるべく早めにって言ったの若でしょう。でも何なんです、急に栄養のあるモン買ってこいなんて」 大体アバウト過ぎてわからない、と呟きながらパソコンのキーボード音が響く室内に足を踏み入れ、何気なく見た奥の書斎。 「す、昴さん……あの」 見慣れない"あるもの"に目を見開き思わず若の本名を呼ぶ。 「おー」 珍しく気のない返事に再び室内を見遣る。 何度見ても変わらない、その光景。 部屋の隅、正確にいうなら本棚と壁の隙間にブランケットにくるまり踞る、黒髪の……恐らくは少年。 じっとして動かないその姿に思うことはひとつ。 (ゆ、幽霊……?) 「そ、の……」 「なんだよ、(みやび)クン」 「いや唐突に下の名前で呼ばないで貰えますか。なんというか……その、変なところに行って来られたんですか?」 お前が先に呼んだんだろうが、とこれまた珍しく、口元を緩めこちらを見る。 鋭いはずの眼光は、心なしいつもと違う気がした。 「変なところ?」 「あー……っと、要するに心霊スポットとかそういう系の」 「は?俺がソーユー類い信じねえの知ってんだろ?」 「じゃあ霞先生か荒島さんの所ですか?貰ってきちゃったとか」 「おおーお前すげえな。世話することになったから」 「!?霞先生、いや昴さんもか……視える人だったんですね」 「はあ?」 何言ってんだ、と首を傾げる若は俺の目線の先を追い、ああと納得したように頷いた。 「違ェよ。ユーレイじゃなくて、れっきとしたニンゲンだから」 事の経緯を丁寧に説明され、俺が眉をひそめたりふんふんと頷いている時もその少年はぴくりとも動かなかった。 (本当に生きてるんだろうか……) そう思ってしまうほどには、微動だにせず、じぃっと座っている。 「……挨拶してみても良いですか?」 「あー……構わねえよ。喋らねえだろうけど」 そう言い、彼が少年から書類へと目を戻してしまったため、そこで話は打ち切られてしまう。 とはいえ構わないというのだから、遠慮する必要もないだろう。 少年の目の前に移動し、しゃがむ。 そこで初めて、ビクリという反応らしい反応を見せた彼と目が合う。 否、正確に言うなら目を見たというべきだろうか。 虚ろな深海のような暗い色をしたその瞳は、まるで人形の目として填められたガラス玉のようで。 俺を映しているようで映していないような、そんな瞳。 (……幽霊より怖い) だけれど、自分から話しかけてみたいと言った手前、何もせずに離れるわけにも行かず。 「こ、こんにちは。雪藤 雅(ゆきふじ みやび)です」 なるべく笑顔を作り話しかけてみたものの、若が言った通り反応はほぼない。 振り返ると『だから言ったろ』と若がため息混じりに苦笑する。 「……そっとしとけ。喋りたくなったら自分から喋るだろ」 もう一度彼を見つめても、彼はただただじぃっとこちらを見るだけで。 仕方なく、その場を離れ若の側へと戻る。 「……とりあえず頼まれていたものは終わりましたが」 あの子が、いる場では言うべきではない。 察してくれたようで、若もありがとな、とだけいい席を立った。 ぴくり。 まるで犬のように身体を反応させ、少年は、律君は若を目で追っている。 「とりあえず先に飯だな。手伝ってくれるか」 「あ、はい。分かりました」 隣の鍋でふつふつとお粥が煮える。 子供って何の味付けが良いんだ? 玉子粥で良いと思いますよ?栄養あるし。 アレルギー……は、ないな。 あんまり味濃くしちゃダメですよ? わーってるよ。 二人で他愛ない会話をしつつ、三人分の料理を作っていく。 といっても、若は律君用のお粥作りに励んでいるので、実質二人分は俺が作っていることになるのだが。 「――……ん、良い感じだな」 味見した若が満足そうに笑う。 火を止め、未だ隅にいる律君へと若は出来たぞと声をかけたのだった。

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