9 / 67
第9話
※律視点です。
虐待並びに病み表現がありますので、ご注意下さい。
いつからか、ぼくは夢を見るようになった。
最初はおかーさんが死んじゃうゆめ。
おとーさんにぼくが見えなくなっちゃったゆめ。
おとーさんはぼくをおかーさんの名前で呼んで、お返事しなかったら「悪い子だ」って叩かれた。
だからぼくはゆめの中で、おかーさんになった。
お返事すれば、おとーさんはニコニコ笑ってたから。
ちょっと大きくなってからはおかーさんの好きだったお洋服を着なさいって言われた。
おんなのこみたいでヤダって言ったら、おかーさんはそんなワガママ言わないって叩かれるゆめ。
でも目が覚めたら、おとーさんもおかーさんもニコニコして、ぼくのお話聞いて一緒にご飯食べたりお出かけしたり出来たから、怖いゆめを見てもがんばれた。
けど、ゆめの中でもいっぱいごめんなさいしたら、おとーさんがぎゅってしてくれたから、怖くない日もあった。
桜が咲いてセミさんが鳴いて葉っぱが赤くなって雪が降って。
何回か繰り返してセミさんがいなくなった頃。
おとーさんが男の人を連れてくるゆめを見るようになった。
「へえ、息子さんですか」
「はは、女装してるから娘かと思ったよ」
じょそうって何だろ。
首を傾げていたら、その人がぼくに触った。
「ずいぶんと可愛らしい」
その目が怖くてぞわぞわしたぼくは、思わず触られた手を払った。
おとーさんがごめんなさいして、男の人は笑ってた。
「なかなかいい値段つくんじゃねえの」
「馬鹿。ちゃんと仕込んでからの方が稼げるだろ」
しこむ?かせぐ……?
ゆめの中なのに大人の言葉はよくわからない。
そしたらおとーさんに男の人が耳元で何か言って、おとーさんは頷いた。
次の日。
ぼくはすごくすごく久しぶりに、おとーさんとお外に出るゆめを見た。
嬉しかったけど、おとーさんははぐれるなって、手を離してくれなかった。
「ああ、あった、ここだ」
引っ張られてついたところには、犬さんや猫さんがいて。
「さあ行くか」
コンコン、と叩いた扉が開く。
「お電話しました墨染ですが」
「ああ、ありがとうございます。荒島と申します」
メガネをかけたお兄さんがおとーさんに挨拶をする。
「それで、この子ですか?」
「そうです」
ぼく?
ぼく、また何かしちゃったかな。
怒られるのかな。叩かれるのかな。
そう思ったけど、お兄さんは「こんにちは」と笑う。
「……こん、にちは」
シャツをぎゅっとしながら、挨拶してみる。
「ちゃんと言えるなんて、偉いですね」
ぽんぽんと頭を撫でられた。
すごく久しぶりで、嬉しかった。
それからお兄さんはおとーさんと色々お話をして。
最後にぼくを見てまたねと笑った。
それから少しして。
ぼくは犬さんになるゆめを見た。
「今日からお前はイヌだぞ」
おとーさんが言った。
「いい子にしてたら可愛がってやるからな」
おとーさんが連れてきた男の人がぼくの前にしゃがんで笑う。
イヌなんだから服はいらないよな、とその人がぼくの服を掴んだ。
「や……っ、おとーさん!」
怖くてじたばたしたら「おとなしくしろ」って叩かれた。
たすけて。
叫んだ声はおとーさんに届かなかった。
その後。
ぼくは犬さんだからと黒い首輪と鎖をつけられた。
これから歩く時は手も使いなさいって言われて、ご飯もお皿から直接食べなさいって言われた。
なんでこんなゆめを見るのかな。
ぼくいい子にしてるはずなのにな。
そう思ってたら、ゆめの中におとーさんがいなくなった。
そしたら、男の人が「今日からオレがお父さんだ」と言った。
お父さんはどきどき自分のお友だちを連れてきた。
こんにちは、って言ってみたのにイヌは喋るなって怒られた。
悪い子だな、ってお仕置きされた。
目が覚めたら大丈夫。
そう思ってたのに、ぼくは目が覚めなくなっちゃった。
おとーさんもおかーさんも、呼んでも返事をしてくれない、真っ暗な世界。
そのうち、ゆめの中でもお父さん達がいない間は真っ暗になった。
どっちがゆめでどっちが起きてるのかな。
わからなくてわからなくて、ずっとずっと考えてた。
そしたら、そんな、真っ暗な世界で声がした。
ともだちにシェアしよう!