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第9話

※律視点です。 虐待並びに病み表現がありますので、ご注意下さい。 いつからか、ぼくは夢を見るようになった。 最初はおかーさんが死んじゃうゆめ。 おとーさんにぼくが見えなくなっちゃったゆめ。 おとーさんはぼくをおかーさんの名前で呼んで、お返事しなかったら「悪い子だ」って叩かれた。 だからぼくはゆめの中で、おかーさんになった。 お返事すれば、おとーさんはニコニコ笑ってたから。 ちょっと大きくなってからはおかーさんの好きだったお洋服を着なさいって言われた。 おんなのこみたいでヤダって言ったら、おかーさんはそんなワガママ言わないって叩かれるゆめ。 でも目が覚めたら、おとーさんもおかーさんもニコニコして、ぼくのお話聞いて一緒にご飯食べたりお出かけしたり出来たから、怖いゆめを見てもがんばれた。 けど、ゆめの中でもいっぱいごめんなさいしたら、おとーさんがぎゅってしてくれたから、怖くない日もあった。 桜が咲いてセミさんが鳴いて葉っぱが赤くなって雪が降って。 何回か繰り返してセミさんがいなくなった頃。 おとーさんが男の人を連れてくるゆめを見るようになった。 「へえ、息子さんですか」 「はは、女装してるから娘かと思ったよ」 じょそうって何だろ。 首を傾げていたら、その人がぼくに触った。 「ずいぶんと可愛らしい」 その目が怖くてぞわぞわしたぼくは、思わず触られた手を払った。 おとーさんがごめんなさいして、男の人は笑ってた。 「なかなかいい値段つくんじゃねえの」 「馬鹿。ちゃんと仕込んでからの方が稼げるだろ」 しこむ?かせぐ……? ゆめの中なのに大人の言葉はよくわからない。 そしたらおとーさんに男の人が耳元で何か言って、おとーさんは頷いた。 次の日。 ぼくはすごくすごく久しぶりに、おとーさんとお外に出るゆめを見た。 嬉しかったけど、おとーさんははぐれるなって、手を離してくれなかった。 「ああ、あった、ここだ」 引っ張られてついたところには、犬さんや猫さんがいて。 「さあ行くか」 コンコン、と叩いた扉が開く。 「お電話しました墨染ですが」 「ああ、ありがとうございます。荒島と申します」 メガネをかけたお兄さんがおとーさんに挨拶をする。 「それで、この子ですか?」 「そうです」 ぼく? ぼく、また何かしちゃったかな。 怒られるのかな。叩かれるのかな。 そう思ったけど、お兄さんは「こんにちは」と笑う。 「……こん、にちは」 シャツをぎゅっとしながら、挨拶してみる。 「ちゃんと言えるなんて、偉いですね」 ぽんぽんと頭を撫でられた。 すごく久しぶりで、嬉しかった。 それからお兄さんはおとーさんと色々お話をして。 最後にぼくを見てまたねと笑った。 それから少しして。 ぼくは犬さんになるゆめを見た。 「今日からお前はイヌだぞ」 おとーさんが言った。 「いい子にしてたら可愛がってやるからな」 おとーさんが連れてきた男の人がぼくの前にしゃがんで笑う。 イヌなんだから服はいらないよな、とその人がぼくの服を掴んだ。 「や……っ、おとーさん!」 怖くてじたばたしたら「おとなしくしろ」って叩かれた。 たすけて。 叫んだ声はおとーさんに届かなかった。 その後。 ぼくは犬さんだからと黒い首輪と鎖をつけられた。 これから歩く時は手も使いなさいって言われて、ご飯もお皿から直接食べなさいって言われた。 なんでこんなゆめを見るのかな。 ぼくいい子にしてるはずなのにな。 そう思ってたら、ゆめの中におとーさんがいなくなった。 そしたら、男の人が「今日からオレがお父さんだ」と言った。 お父さんはどきどき自分のお友だちを連れてきた。 こんにちは、って言ってみたのにイヌは喋るなって怒られた。 悪い子だな、ってお仕置きされた。 目が覚めたら大丈夫。 そう思ってたのに、ぼくは目が覚めなくなっちゃった。 おとーさんもおかーさんも、呼んでも返事をしてくれない、真っ暗な世界。 そのうち、ゆめの中でもお父さん達がいない間は真っ暗になった。 どっちがゆめでどっちが起きてるのかな。 わからなくてわからなくて、ずっとずっと考えてた。 そしたら、そんな、真っ暗な世界で声がした。

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