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第10話

※律視点 「……おとー、さん?」 優しくて温かい雰囲気におとーさんが帰ってきてくれたと思って、呼んでみた。 けど、お返事がなくて変だなあって考えてたらその声の人は「悪いな、おとーさんじゃなくて友達なんだ」って言った。 おとーさんじゃないって言われて、お父さんの友達なんだって思った。 ぼくは喋っちゃったから怒られるって思って、ぎゅって唇を噛んだ。 けど、その人は「話がしたいだけなんだ」って言う。 おとーさんとお父さん、どっちだろ。 いる所なんて、ぼくだって教えてほしい。 そう思ってたら、その人は何かにびっくりしたみたいに、大きい声を出した。 別の男の人のお返事が聞こえてちょっとしたら、その人がお部屋を出る感じがした。 ぼくがいい子じゃないから、悪い子だから、いなくなっちゃったのかな。 あ、戻ってきたみたい。 「外してやるから、大人しくしててくれな?」 お仕置きだ、って言われて動かせなくなってた腕をその人が自由にしてくれる。 あれ、お父さんのお友達じゃないの……? 何か呟きながら、じゃらじゃらと鎖を鳴らしている。 お散歩かなあ?でもお散歩用のお洋服着てないし……。 「若!」 ばたばたって走る音と男の人の声がした。 若?この人若っていうんだ。 "若"さんは走ってきた男の人達とお話をして、すごく優しい声で男の人を褒めてた。 いいなあ、ぼくもあの声でほめられたいなあ。 ガチャリ。 「失礼致します」 扉の音がして、聞いたことのある声がした。 そしたら急に真っ暗な世界が明るくなって、ぼくはぱちぱちと瞬きをする。 最初に見えたのはちょっと怖そうな男の人。 けど、強そうでかっこよく見えた。 次に見えたのはメガネのお兄さん。 あ、この人!おとーさんと一緒に会ったことある! ってことは、ちょっと怖そうな人が"若"さん? お兄さんがため息をつく。 あの日はすごく優しかったのに、今はなんだかとても怖い。 思わずびくっと震えちゃったけど、お兄さんの手が優しくほっぺに触った。 「……少し眠るといい」 お兄さんの声がしたら、首がチクっと痛くて、なんだか眠くなっちゃった。 ――ふかふかする。 目を開けてみたら、いつも寝てるお布団よりふかふかであったかい所にいた。 違和感で自分を見たら、少しぶかぶかだけどお洋服を着てた。 ぼく、イヌだからお洋服いらないんじゃなかったの? そう思いながら体を起こすと、さっきの怖そうな男の人がいた。 「おー、起きたか」 その人は少し離れた所にある机でパソコンを触ってた。 「あと少しで雅……あー雪藤っつーやつがご飯と洋服と買ってくるから、もう少し寝てていいぞ」 寝ててもいい? でも、こんなふかふかな所落ち着かないや。 そこから下りようとしたら、男の人はどうした?とこっちを見る。 けど、なんて言ったらいいかわからなくてじっと見つめ返してみる。 「……あー、そっか。俺はなんてったらいいんだ……お前の親父さんにな、しばらく帰れないから面倒見てくれねーかって頼まれたんだ」 おとーさん?それともお父さんかな……? 「安心しろ……っつーのは無理だろうが、新しい家だと思ってくれ。それから、お前のことは……これから"律"って呼ぶな」 この人も、ちゃんと言うこと聞かないと叩くかな。 お返事しないと怒るかな。 怖いこと、する……かな。 そう思ったら怖くなって、床にちゃんと立てなくて転んでしまう。 その人は大丈夫かって来ようとしてくれたけど、ぼくがびくっと震えちゃったから「悪い」って、机の所に戻っちゃった。 大丈夫かって言ってくれたのに。 そう思ったら、胸の真ん中がきゅーってして、苦しくてそのまま隙間に隠れた。 しばらくしたら、もう一人男の人が来た。 明るくて、あのメガネのお兄さんに少し似てる気がした。 「こんにちは、雪藤 雅です」 ご挨拶した方がいいのかな。でも、怒られちゃうかな。 あれ?ぼくの名前、なんだっけ……。 さっき名前を言ってくれてた気もするけど ずっと呼ばれてないから、わからなくなっちゃった。 みやびお兄さんは悩んでるぼくに笑いかけると、パソコンの方に行っちゃった。 「先に飯だな」 二人がご飯を作り始めて、良い匂いがしてくる。 いいなあ、お腹、空いたなあ。 最後にご飯食べたの、いつだろう。 そう思ってたら「出来たぞ」って声がした。

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