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第13話

ぱち、と目を開けたら昨日と同じお部屋にいた。 あれ、ゆめじゃなかったの? カタンって音がしたから、お布団から出てみる。 あ、みやびお兄さん。 ぼくに気づいたお兄さんはおはよう、って言うちょっと待ってねと笑う。 あれ?若さんは……? 首を傾げてたら、お兄さんが「ああ」と言って火を止めた。 「昴さんはね、お仕事なんだ」 お仕事? 「お空が真っ黒になるまでには帰ってくるよ」 そっかあ、良かった。 ぼくがいっぱい怖いって言っちゃったから、いなくなっちゃったのかと思った。 みやびお兄さんはぼくの側に来ると、はいと昨日と同じ……昨日より少し小さいスプーンを見せた。 「今日は自分で食べてみようか」 律君サイズだから持ちやすいよ。 お兄さんは笑うと「俺の真似してごらん」と言った。 お手本を頑張って真似してみる。 おかーさんがまだ生きてた頃は、ぼくがまだイヌじゃなかった時はこういうの、使ってた気がする。 ちょっとだけ思い出したぼくは、こうかなって試してみた。 少しだけすくえたお粥を、口に運ぶ。 「上手だね」 みやびお兄さんは目を細めて笑う。 それが思い出したおかーさんに少し似てて、胸のあたりが痛くなった。 「律君?どうしたの?」 優しい声に、何か言いたいのに言葉が出てこない。 こんな時ってなんて言えばいいんだろ……。 わからなくて、思わずお兄さんを見つめることしか出来なくて。 でも、そしたらお兄さんは「昴さんにも見せてあげたいね」って言う。 きっと褒めてくれるよ。 あの時の、若さんがぼくのお部屋に来たときの事を思い出す。 『……よく見つけたな』 本当? あの、温かくて優しい声で褒めてもらえるの? きゅ、とスプーンを握ってお椀に入れる。 「ふふ、頑張ろうね」 ご飯を食べ終わって、お片付けして。 みやびお兄さんがお洗濯とお掃除をするっていうから、お手伝いしたかったけど、お兄さんは本をいっぱい持ってきた。 「これ読んでお勉強してて」 お勉強……って、いっぱい覚えること……だよね。 今までしてたのと、ちょっと違うなあ。 そう思いながら一番上にあった本を取る。 ぱら、とめくって読んでみる。 ……読めない字、いっぱい。 そう思って二番目の本を取る。 あ、こっちはちょっと読める。 難しい漢字もあったけど、ひらがなが書いてあるから、ちゃんと読めた 。 頑張って読んでたら、いつの間にかみやびお兄さんが目の前にいた。 「面白い?」 えっと何て言おう。 そう思ってたら、お兄さんは唇に手を当てたあとにっこり笑った。 「言いたいこと、わからなかったら頷くだけでもいいよ」 律君の言いたいこと、ちゃんと読み取るから。 ね?とお兄さんが笑ってもう一度「面白いかい?」と聞くのでコクンと頷いてみた。 「そっか。律君はこういう本が好きなんだね」 じゃあ昴さんにお願いして増やしてもらおう。 そういうみやびお兄さんの声はどこまでも優しかった。 熱心に本をめくる姿を見て、ちゃんとした教育を受けていれば、今頃、何かしら夢を見つけて、それに向かって努力していたんじゃないかと感じた。 それからもうひとつ。 律君に何か聞いたとき、反応が薄いのは、照れや恐怖からではなく"何を言えばいいかわからない"もしくは"何も話してはいけない という躾"を受けていたのではないかと。 その夜、帰ってきた昴さんに俺の考えを話してみる。 「そうか……なるほどな」 ぎし、とソファーに体を沈めながら昴さんは腕を組む。 律君は言いたくないというより、話すことを知らないといった方があっている気がする。 今日は一日サンキューな。 ふう、とひとつ大きなため息を吐き、昴さんは霞先生へと電話をかけたのだった。

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