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第15話

律が来てから早いもので、だいぶ時が過ぎた。 変わったこともあれば、変わらないこともある。 変わったのは、俺が別宅でも本宅でもなく、この部屋に帰るようになったこと。 いつでも仕事が出来るようにと、パソコンはもちろん仕事道具は揃えてあったものの、使う時はほとんどが一人になりたい時や惰眠を貪りたい時とそこまで使用頻度が高くなかった。 必要最低限なものしか置いていなかったこの部屋は、今や生活感溢れる一室となっていた。 ちらりとひと続きになった寝室を見れば、ベッドの横にちょんと敷かれた律用の布団。 ベッドより布団の方が好きらしい律は、夜はそこで丸くなって眠る。 (……犬っぽさが抜けねえんだよなあ) 変わらないのは律。 まあ数日でそこまで大きく変化するとは思ってないし、正直変わった部分もあるにはあるけれど。 じっと見る癖、瞬き、首を傾げる。 (……なんつーか、なあ) 七年のうち、どのくらいああしていたのか俺にはわからないが、それでも、自然とそう行動してしまうほどにはそういう扱いを受けていたわけで。 今現在は、ぱらぱらとページをめくり読書に勤しんでいる彼を見つつ、その事を考えてしまう。 雪藤が用意した長袖はVネックのものもあり、それを着ている日は首筋の赤い痕がよく見える。 薄くはなってきたものの、痛々しいソレ。 本人はあまり気にしていないようだが、こちらとしてはどうしても目が行ってしまう。 「……律」 何とはなしに呼んだ名前。 本から顔をあげ、こちらを見る姿は何てことはない、標準より少し小柄な少年でしかない。 「面白いか?」 コクンという頷きに、そうかと短く返す。 邪魔して悪かったな。 律は何故聞くんだろう、というような顔をすると再び本へと視線を戻した。 食事の時も、少しずつ上達しているスプーンの使い方に時折褒めてやると、未だ暗い闇が残っているものの、その瞳が僅かに揺れる気がして。 そのまま、いつかは感情が表に出てくればいい。 本当は頭を撫でてやりたい。 頑張ったな、と抱きしめてやりたい。 思いはするものの、今の関係ではただ怖がらせてしまうだろうから。 (せめてもう少し表情が出るようになったら、だな) 心の中で呟き、一人頷いた。 今日はみやびお兄さんがいなかった。 だから若さん……昴さんと、ふたりきり。 ――きんちょう、する。 みやびお兄さんは、温かくてすごく優しい。 ぼくに色んな事を教えてくれて、おとーさん達にいつも怒られてた事しちゃっても、お兄さんは笑って大丈夫って言ってくれた。 昴さんは朝、ぼくが起きる前にお仕事に行く。 夜は早く帰ってくる時もあるけど、眠っちゃってから帰ってきたりもする。 たまにお部屋にいる日は、パソコンとにらめっこしてる。 おとーさんやお父さん達みたいに、怖いこととか痛いこととかしない。 けど、よくわからないけど……昴さんといると体が固まる。 この前、みやびお兄さんが読んでいいよって言った本には"緊張"って書いてあった。 みやびお兄さんと同じ、温かいし優しい声なのに、なんでだろ。 本で探してみてもどこにも書いてなくて、結局わからなかった。 本を見ながらちら、って昴さんの方を見る。 パソコンとにらめっこしてる昴さんはぼくに気付かない。 あんまりじっと見てると怒られちゃうかな。 そう思って昴さんに気づかれる前にもう一回本を見ることにした。

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