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月輪の約束 13

丈は俺の首に月輪のネックレスを掛け、それから自分の胸にも掛けて穏やかに微笑んだ。 「遠い昔もこんなことを?」 そう丈に聞かれて、朧げな記憶を辿る。 月輪のネックレスはいつも胸元に揺れ、抱かれる時も外さなかったような気がして、俺は小さく頷く。 「そうかも知れない…」 「洋…いいか?」 向かい合っていた俺達が更にきつく抱き合うと、月輪が重なり カラン… と透き通る音を立てた。 今から共に抱いて抱かれる合図のように、厳かに響いた。 丈の手が俺のシャツに伸びてきて、ボタンをひとつ…また一つと外していく。 段々と肌蹴け、俺の肩が少し見え始めると丈は首筋に顔を埋める。 鎖骨から肩のラインに沿って、唇を這わせ…時に吸い、時に舐め…俺にお前の跡を残していく。 さらに、下へ下がり赤く熱を持った俺の小さな突起を口に含め、甘噛みしてくる。 「はうっ…」 ゾクゾクと駆け巡る心地良さに、身震いする。 突起を指で押しつぶすように触られ、摘まれ、撫でられると、痛い位の快楽が下半身へつながっていく。 「あっ…んっ…そこっ…駄目…」 更にボタンをまたひとつ外し、その間から手が優しく滑りこみ、シャツをすべて脱がされると、丈の温かい肌と俺の肌が密接に磁石のようにくっつき合う。 丈の温もりが直に届き、冷えた躰はどんどん熱を持っていく。 「んあっ…あっ…」 あの男もこうやって抱かれていたのか? 「洋の躰は綺麗で穢れていない…」 丈がいつも言ってくれるその言葉が俺を包み込んでいくと、今日は悲しくて涙が込み上げてくる。 何故だろう。遠い昔の俺はそうではなかった気がするのは… 俺が必死に守ってきた貞操。 何が何でも守りたかったのは、何故だろう。 そんなにしてまで守りたかったものを、丈には無条件に差し出せた。 丈のために守ってきたのかもしれない。 これはもしかしたら…遠い昔の俺の切なる願いなのか。 「洋?どうした?」 「んっ…なんでもない」 それ以上のことは思い出さない方がいい。 あまり良くない事が潜んでいるような不安を感じる。 俺も丈にしがみつき、共に腰を揺らしていく。 丈の律動と共に揺れ動くのは、胸元の月輪のネックレス。 俺のものと重なり、優しい音楽を奏でている。 遠い昔の俺と今の俺。二人の想いも重なっていくようだ。 今この瞬間に…遥か彼方からの月輪の約束が叶ったのだ。 まだ分からないこと、不思議なことばかりだが… 今はこれでいい。 このままでいい。 丈と一つになれるこの瞬間が、最高に幸せだから。 第2章 月輪の約束・完

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