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時を動かす 4
「洋、気を付けて行って来い。kai、洋のことをくれぐれも頼むよ」
「おお!任せておけって。有休もたっぷりもらえたし、しっかり洋のこと見張っておくよ、ははっ」
「kaiっ、俺のことは見張るんじゃないだろう? 俺は何もしてないぞ」
「ふふっ洋と二人で旅行なんて楽しみだよ」
「まったく……」
「心配だな」
丈と俺は顔を見合わせて苦笑してしまった。kaiはどこまで本気でどこまでが冗談だかわからないが、本人曰く言霊に縛られているらしく俺をからかいはするが手を出するつもりはないらしい。
ヨウの信頼する部下だったカイの末裔。そのこともあるから丈はkaiのことを信頼している。だから丈自ら頼み込んで、一緒に渡米してくれることになった。あれからkaiを通して現地の義父の入院先や状況を調べてもらったが、まだ意識は戻らず危ない状態が続いているらしい。
「丈、由さんと王様と洋月のことをよろしく頼む。俺、しっかりケリををつけてくるから……」
「洋、あまり無理するなよ」
丈の横に立っている洋月のことを見ると、俺が注文してあげた白地の浴衣を着て、静かに微笑んでいた。白い小袖も似合っていたが浴衣もしっとりと着こなしている。
「うん!似合うよ」
「ありがとう。洋……俺……祈っているから」
「ありがとう。じゃあ行ってくるから。俺の丈のことよろしくな」
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そんな挨拶を交わしkaiと共に俺は久しぶりにアメリカにやってきた。ニューヨーク州マンハッタンは、高校の途中から大学卒業までの五年間を過ごした土地だ。
「あぁ懐かしいな」
「洋は大学卒業まで、ここに住んでいたって聞いたが」
「うん、五年間過ごした場所だ」
「五年も! 俺も大学の時、旅行でニューヨークに来たことがあるよ」
「kaiも? 俺達どこかですれ違っていたかもな」
「そうだな、さてちょっと一息いれようぜ。珈琲でいいか」
「うん。アイスコーヒーにしようかな」
コーヒースタンドで一服しながら、金髪碧眼の人が往来する空港内をぼーっと眺めていると、昔のことが走馬灯のように思い出される。
ひたすら目立たぬようにひっそりと過ごしていた五年間。
息が詰まるような義父との二人暮らしで、休日の気まずさに耐えかねて、サウス・フェリーに乗ってスタテン島へ往復することでいつも時間を潰していた。
あの時の義父は、俺との間の一線を越えるようなことは決してなかった。いつも俺を見る目は苦痛に歪んでいた。義父は何を感じ何を我慢していたのか。
あの時船であった伯母の話は、俺が全く知らない聞かされていない世界だった。もともとの母の婚約者だったのが義父だったなんて知らなかったよ。母が婚約者や家を捨て家庭教師をしていた実父と駆け落ちをしていたなんてな。 (※安志編 面影9参照)
義父のしたことは許せない。許せるはずないじゃないか。無理矢理脅すように俺の躰を支配し、奪ったのだから。だが婚約者だった母を愛していたのに裏切られたことが、義父の苦しみの発端となっていたのかもしれない。そう思うと何とも言えない気持ちになってしまう。
「洋、まっすぐ病院へ行くか」
過去に想いを馳せていると、現実に引き戻されるようにkaiに声をかけられた。
「あぁそうしよう。義父の様子を……まず確認したい」
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