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時を動かす 6

「おい!洋ここにいたのか~」  中庭で空を見上げているとすぐにkaiに見つかってしまったので、目元に滲んでいた涙を手の甲で慌てて拭った。 「大丈夫か」 「あぁ……少し動揺しただけだ」 「本当にそれだけか。ちゃんと話せよ」 「kai……ごめんな。今日はもうホテルに行こうか。義父さんの状態は分かったし、少し冷静になって、また出直すよ。時差もあって俺……体調が悪いみたいだ」 「そうなのか! 悪いっ気が付かないで。お前に何かあると丈に怒られるからな。さぁホテルに行くぞ!」 **** 「洋、おはよう!よく眠れたか」 「kai、おはよう……うん、昨夜は悪かったな。俺、結局何も食べずにあのまま寝てしまった?」 「そーだよ!せっかくアメリカに来たのに、俺の晩飯はカップラーメンだったぞ! 今日は行きたいレストランがあるんだ。付き合ってくれよな」 「もちろん、それは悪かったな」 「あとさ洋、今日も親父さんのとこ行くだろ? ちゃんと触ってやれよ」 「……あ……うん…」  昨日はICUに横たわる生気のない義父の姿に動揺してしまった。  俺はあの人に触れることが出来るだろうか。 あの日、あの手に押さえつけられた躰が……手首が……首元が痛い。  もうそんな感覚忘れたと思っていたのに、蘇って来てしまう。思い出してしまう。あの陵辱の時間を。  これはkaiには話せていない事だ。いや……話したくない事だ。  状況が掴めないkaiのことを心配させているとは分かるが、明るい返事を返せないでいた。  そんな時、スマホにメールの着信があった。 「あっ丈からだ!」 「はいはい。彼氏からのラブコールですな~」 「kai!!」  メールを開くと、丈の穏やかな空気が届くようだった。 ****  洋、おはよう。無事にN.Yに着いたようだな。kaiから昨夜はすぐに寝てしまったと聞いたが、無理しているのだろう。親父さんにすぐに無理に会わなくてもいい。無理だけはするな。自然とそういう気持ちになるのを待てばいい。  きっと訪れるから……とにかく焦るな。  洋はちゃんと自分の力で立っている。小さくなんてない。だから自信を持て。  またメールするから、少し休め。 ****  丈の優しい想いがさざ波のように、遠いアメリカまで届くような文面だった。まるで昨日の俺の涙の理由を知っているかのようだ。スマホをじっと眺め、余韻に浸ってしまった。 「洋、無理しなくていいんだぞ。親父さんに今すぐ会うのが戸惑うのか。何か理由があるんだろう? 今日は行くのはやめておこう。その代わり、俺が病院へ行って、状態に変わりがないかだけ確認してくるからさ」 「kai……」  俺の表情から何かを読み取ったのか、kaiの方からそんな申し出があるとは。正直有難かった。 「それでいいだろう?」 「うん……kai、あの、ありがとう」 「ははっ照れるな。俺ってさ、結構勘がいいだろっ。その代わりレストラン~付き合ってくれよな」 「いいよ、もちろんだ! 今、仕度するよ」  kaiの明るさに救われる。  うん……今出来ることをやっていこう。 「焦るな……無理するな」  丈の言葉をそっと口ずさみ、俺は朝の支度を始めた。

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