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太陽の影 1

「本当にありがとうございました!」  太陽のように明るい笑みを浮かべ、ぺこりとお辞儀をして去っていく青年を見送った後、私は二階の客室に戻った。 「そこにいたのか…」  窓辺のカーテンに隠れて立っているのは洋だ。  やはり涼くんのことが気になって見ていたのか。 「もう涼くんは、帰ったよ」 「そうか」 「本当によかったのか。会わなくて」 「あぁ今はまだ……ここでは嫌だった」 「そうか、また機会はあるだろう」 「丈、やっぱりここは息が詰まるな。早く帰りたい。俺たちの家に……」  そう言いながら甘えるような仕草で、洋は私の肩にコトンと額を押し当てた。  (本当は涼くんに直接会いたかった)  そんなもどかしい気持ちが伝わってくるようだった。 ****  俺は二階の窓からカーテンに身を隠し、去っていく涼のことを見つめていた。 「本当に大きくなったな」  涼と直接会ったのは何年ぶりだろう。あの日フェリーで別れてから随分と長い年月が過ぎた。小さかった少年がいつのまにかあんなに大きくなって。十七歳の涼に高校時代の俺の姿を思い出す。  そっくりなんだ。  そっくりすぎて怖い位だよ。  本当は……傷ついた涼をこの手でしっかりと抱きしめてやりたかった。抱きしめることが出来なかった自分の手をじっと見つめていると、むなしい気持ちが込み上げてきた。  ごめん、涼。  俺は……ここで君と再会するのが嫌だった。義父が見ている前で涼と向かい合う勇気が……情けないことに俺にはまだなかった。君が俺を探してくれているのを知っているのに、酷いよな。    義父との事件。  あれから五年の歳月があっという間に過ぎた。  義父と和解したはずなのに、俺を犯したあの傷は消えそうで消えてくれない。いまだに躰の奥底で永遠に癒えない傷となり、くすぶっている。あの日慈雨の涙を流し全てを許そう、忘れようと思った。努力した。  だが、そう簡単に心の傷は癒えないのだな。それでも父と息子という親子の関係は淡々と続いている。  今回、わざわざ仕事を休んでアメリカまで丈とやってきたのには理由がある。  それは涼のことが心配だったからだよ。  君を救えて良かった。本当に……

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